映画「アキラとあきら」、劇場では2ヵ月くらい前から予告をしていた。とにかく面白そうだったので、公開されたらぜひ観たいと思っていた。

 池井戸潤原作の作品にハズレはないとよく言われる。「七つの会議」「空飛ぶタイヤ」なども面白かった。この「アキラとあきら」は、池井戸作品の映画の中で決定版と言っていい出来である。

 映画は日本有数のメガバンクの入行式から始まる。このシーンがよく出来ていて、育った環境や考え方の違う「アキラとあきら」の最初の対決シーンとなる。また、ラストに続く重要な伏線にもなっている。

 若くて青臭いくらいの「アキラとあきら」だが、厳しい社会の現実が待ち受ける。竹内涼真扮する山崎瑛は左遷されて地方支店に異動になり、横浜流星扮する階堂彬は父親の会社を継ぐべく銀行を辞めてしまう。離れ離れになってしまったと思える「アキラとあきら」だが、階堂彬の会社を再建するために力を合わせることになる。一人はバンカーとして、一人は会社経営者として、生々しい思惑の中で葛藤する。そして、不可能と思われた会社再生案を思いつくのだ。ここで、粉飾決算という映画冒頭の伏線が見事に回収される。

 ドラマ「半沢直樹」のような土下座のシーンもある。しかし、その土下座は「半沢直樹」の時のような人への優越や、上下関係を意味するものではない。若き経営者が人の心を動かすためにする土下座である。

 映画の序盤から中盤、そして終盤に至るまで、ドラマチックなストーリー展開がよく練られており、骨太の脚本に仕上がっている。ラストのペンダントの拾い上げは予想通りだが、それでも感動的なシーンだった。あえて難を付ければ、階堂龍馬(高橋海人)が叔父の二人に騙されるところがあっさりし過ぎたくらいだろうか。

 キャスティングがベストである。「アキラとあきら」を演じる二人が素晴らしい。特に竹内涼真は、今までのキャリアでベストの演技ではないだろうか。また、銀行の上司・不動を演じる江口洋介はさすがの貫禄だった。不動の役があったので、映画が引き締まったと思えるほどである。紅一点で上白石萌歌が出演している。男同士のぶつかり合いのストーリーの中で、ほっとできる瞬間を作ってくれた貴重な存在だった。

 この映画も三木孝浩監督作品である。このひと月で「今夜、世界からこの恋が消えても」「TANG タング」に続いて3本目の作品となった。先月、このブログで「今夜、世界からこの恋が消えても」の雑感を書いた。その中で「突然の事故や病気を持ち出さなくても泣ける映画を観たかった」と書いた。この「アキラとあきら」は、真に泣ける映画である。日本映画で、こんな作品を観たかったという気持ちになった。三木孝浩監督にとってもベストの仕事だろう。三木監督、やるじゃあないか!

 久しぶりに人に勧めたくなる映画だった。まだ観ていない人は映画館へお早めに…。