7月下旬の日曜日、2年ぶりに真庭市の星山(1030m)登山に行った。少し前に登った人のネット上の記事では、猿が多くいて怖かったという。近くに神庭の滝という名瀑があり、そこでは昔から猿の餌付けがされている。一匹ならまだしも、大群の猿が近くにいれば恐怖だろう。果たして、登山中に猿に出くわすのか…。

 神庭の滝の手前を右折し、星山に向かって車を走らせていた。すると、道の脇に一匹の猿がいて、何か食べているようだった。やっぱり猿がいるのかと思って不安になっていたら、登山口近くの駐車場に着いた。8時40分頃だった。

 一台の車が止まっていて、出発の準備をしていた。20代の男女だった。恋人同士か若夫婦に見えた。すると、すぐにまた駐車場に入ってきた別の車があった。今度は70代の老夫婦だった。

 最初に若い二人が出発し、その後を追うように私が出発した。8時48分だった。2年前に来た時は「勝山美しい森」という施設があり、そのビジターセンターの前を通って登山道に入った。しかし、「勝山美しい森」は既に閉鎖されており、ビジターセンターへは行けないようになっていた。舗装された道を左折したところに東口登山口があった。ここから登るのは初めてである。

 擬木の階段を登って行くと、ビジターセンターからの合流地点があった。ここも通ることができないようになっていた。気持ちの良い樹林帯の中を歩いて行く。徐々に暑くなって汗をかいてきた。近くで何かの音がすると「猿か?」と思って何度も頭上を見たが、猿はいないようだった。

 登りながらふと思った。以前来た時と比べて、明らかに登山道が荒れている。手入れがされていない気がした。その証拠にヤブ化しているところが何か所かあった。登山道の周辺の笹は、以前は刈り取られていて歩きやすかった。しかし、今回は伸び放題になっている。これはどうしたことか。「勝山美しい森」が閉鎖されたので、管理する人がいなくなったということだろうか。

 前を歩いている若い男女の姿がちらほらと見える。追い越すのも失礼かと思い、適度の距離を保って登って行った。よって、いつもよりもゆっくりペースだった。近づきすぎたと思ったら、立ち止まって水分補給の休憩をした。

 9時20分、旧道とトラバース道との分岐に来た。まずはトラバース道へと思って歩き始めた。すると、前方から若い男女が戻ってきている。私を見ると「こっちでいいんですかね」と言った。トラバース道へ行ったものの、道に迷ったと思って戻ってきたようだ。「こっちでいいですよ。こっちがトラバース道で、もう一方が旧道です。どっちを行っても先で合流するんです。初めにトラバース道を通って登り、下山する時に旧道を通ったらどうですか」と教えてあげた。若い男女はホッとした様子で、もう一度先に進んで行った。確かに、この分岐に何か案内があった方がいいだろいう。

 トラバース道に入ってしばらくすると、片側の視界が開けて周辺の山並みが見えてくる。更に先に進むと杉林の中に入り、旧道と合流した。ここは鞍部というべきところだろう。ホッと一息つき、右折して頂上を目指した。

 樹林帯を抜けると、日差しを受けてますます暑くなった。汗が首筋を流れる感触がした。ひと時の癒しを与えてくれたのが、登山道わきに咲くオオバギボウシだ。白くて可憐な花弁をもたげてくれて迎えてくれた。ササユリは盗掘者が多いのか、注意書きが何か所もあった。自然を壊さないというのが登山の最低限のルールのはずなのだが…。

 八合目の標識を過ぎ、その先の展望岩の上で景色を楽しんだ。今日は遠くまでよく見える。笹が生い茂る中を抜けて行くと、徐々に頂上が近づいてきた。

 頂上に着いたと思ったら、先に登った若い男女とすれ違った。「もう下山するんですか?」と聞くと、頂上にスズメバチが多くいて、危険なのですぐに下山するという。本当かなと思いながら頂上広場に着いた。9時52分だった。

 恐る恐る見渡してみると、確かにスズメバチがいる。頂上標識の向こう側の案内図のところに、多くのスズメバチが飛び交っている。近づくことさえできそうにない。ゆっくりと景色を楽しみながらおにぎりでも食べようと思っていたが、危険なので私も長居をするのをやめた。写真を数枚撮っただけだった。蒜山三座は見えたが、大山は雲で隠れてはっきりと確認できなかった。

 5分くらい頂上に滞在しただけで下山にかかった。途中、すれ違う人にスズメバチのことを教えてあげた。駐車場で出会った70代のご夫婦にもスズメバチのことを伝えた。するとご主人の方が「これがあるから大丈夫」と言って腰のあたりを指さした。見ると蚊取り線香をぶら下げていた。「蚊取り線香はスズメバチに効果はないですよ」と言ったのだが、わかってもらえただろうか。

 鞍部の分岐を直進し、前山へも行ってみた。ここは岩があるだけで眺望はなし。すぐに下山にかかった。旧道は景色を楽しみながら歩けるで、下山するならこちらの道の方がいいだろう。

 駐車場に戻ったのは10時55分だった。若い男女が車を走らせながら近づいてきた。窓を開けて「ありがとうございました」と言った。前山にも行ったのかと聞いたが、行かなかったということだった。「また登ることがあったら前山にも行ってみたら」と言うと、「そうします」と言って笑顔で走り去っていった。

 結局、車の中でおにぎりを食べた。猿には会わなかったが、頂上のスズメバチは想定外だった。景色を楽しむのは次回ということにしよう。登山道の荒れ方とササユリの盗掘が気になった今回の星山登山だった。