どこか山登りに行きたい。しかし、天気が不安という毎日。7月中旬の日曜日、降水確率0%だということを確認して県北まで行くことにした。向かったのは下蒜山。あの美しい稜線が見たいと思った。下蒜山に行くのは約3年ぶりである。
6時半頃、家を出発した。高速道路を乗り継いで蒜山に向かった。ところが、中国山地が近づくと、車のフロントガラスに雨粒がポツリポツリ。サービスエリアで小休止したが、蒜山三座はガスがかかっていて見ることができなかった。
下蒜山の登山口に着いたのは8時半頃だった。東屋の前の駐車スペースには、7~8台の車が止まっていた。準備をして歩き始めたのは8時40分だった。
以前来た時にはなかった木道を歩いてのスタートだった。山全体に霧がかかっている。蒜山独特の黒ボコの土壌は、濡れているためいつも以上に滑りやすい。注意して歩かなければいけないと思った。
霧のために周囲がよく見えない。樹林帯の中ではポツリポツリと水滴が落ちてくる。湿気が多いので、すぐに汗びっしょりになった。三合目を過ぎた頃、親子連れらしき女性二人を追い越した。話しかけると、やはり美しい稜線を見るために来たという。「霧が晴れるといいですね」と言って先を急いだ。
9時10頃、五合目を過ぎた。晴れていれば、この辺りからきれいな稜線が見えるはずである。しかし、霧のために50m先は真っ白だ。汗を垂らしながら歩いていると、前方に3人の女性が見えた。雲居平まで来た時、その女性たちに追いついた。3人とも60歳くらいだった。私を見ると「写真を撮ってください」と言うので、雲居平の標識の周りに立ってもらって2枚の写真を撮った。残念ながら背後は真っ白である。高知から登山に来ているということだった。できたら中蒜山まで縦走したいとのこと。前日は大山に登ったという。「雨だったでしょう」と言うと、「雨の中を何とか(大山に)登った」と言っていた。私は「晴れていれば、ここ(雲居平)からの稜線がきれいなんですよ。次はぜひ晴れた日に登ってください」と言って先に行かせてもらった。
相変わらず霧がかかっていて、周囲の景色を見ることができない。霧雨が降ってきて、汗と混じって体を濡らしていた。20代の男性が上から小走りで下りてきた。トレイルランをするにも適さない天候だ。挨拶をしてすれ違った。
七合目まで来て、何度目かの休憩をした。ペットボトルの水が美味しい。ここから先は岩場登りとなる。滑らないように一層気を付けなければならない。岩場にかかってすぐに、70歳くらいの男性が下山してきた。私とすれ違いながら上の方を気にしている。見上げると女性が下りてきていた。奥様のようだった。「ゆっくりでいいですよ」と声をかけた。
何とか岩場を登り終えた。ホッとしたのもつかの間、霧雨から普通の雨に変わった。九合目を過ぎ、もうすぐ頂上かという頃、3人の男性グループとすれ違った。急いで下山しているようだった。
頂上に着いたのは9時55分だった。霧のため、景色は何も見えない。濡れているベンチにザックを下ろして一息ついた。70歳くらいの男性が二人がいた。出発の準備をしているようだった。下山するのかと思いきや、上蒜山まで三座縦走をするつもりだという。「こんな天候の日はやめた方がいいですよ」と言っておいた。一人の男性は「中蒜山まででやめておこう」と言っていた。もう一人の男性は何とか三座縦走をしたいようだった。しかし、どう見ても体力を消耗していて、無理なのは明らかだった。結局、中蒜山までの縦走で話が付いたらしく、二人は出発して行った。私は「くれぐれもお気をつけて」と声をかけておいた。
ザックの中からおにぎりを出して食べた。その間にも雨は強くなってきた。これは早く下山した方が良さそうである。体がぐっしょりと濡れているので、久しぶりにレインウェアを出して上着だけ着ておいた。
10時5分、下山開始。雨がどんどん降ってくる。途中、親子連れの二人や、高知から来た三人の女性とすれ違った。岩場での下りが怖かった。五合目くらいまで下山した頃、汗で濡れて不快なのでレインウェアを脱いだ。
樹林帯に入ると、何度か滑ってバランスを崩した。危うく転びそうになったが、何とか持ちこたえた。三合目くらいまで下山すると、下の方から女性の声が聞こえてきた。しばらくすると、下山している女性三人に追いついた。話しかけると、一人が滑って転んだので、今日の登山は中止して引き返しているという。「賢明ですね」と言って追い越した。
11時13分、無事に下山した。登山口の東屋には三人の男性がいて、着替えをしていた。どうやら頂上の手前ですれ違った三人のようだった。「今日は大変でしたね」と声をかけた。三人ともぐったりと疲れているようだった。
汗止めのため首に巻いているタオルを取って絞ると、汗とも雨とも分からない水分がポタポタと落ちた。帰路につきながら蒜山三座を見上げると、まだ半分より上はガスがかかっていた。
結局、あの美しい稜線を見ることはできなかった。まあ、こんな日の登山もあるだろう。次に来る時は絶対に天気のいい日にしようと思った。