10月29日(金)、NHKの朝ドラ「おかえりモネ」の放送が終了した。清原果耶のファンである私は、全ての回を録画して見た。清原果耶が朝ドラの主役をすることをずっと待っていた。

 脚本を担当した安達奈緒子さんは、清原果耶とはNHKのドラマ「透明なゆりかご」でタッグを組んでいる。「透明なゆりかご」が秀作であっただけに、「おかえりモネ」への期待も大きかった。以下はその雑感である。

 ネット上ではおおむね不評である。はっきりと失敗作と言う人もいる。その指摘もあながち間違いないかもしれない。なぜなら、今までの朝ドラのヒロインは、いつもポジティブで積極的、どんな困難が訪れても明るい笑顔で乗り切っていく。ところが、「おかえりモネ」の主役の百音は、受け身であることが多い。自己主張することもほとんどない。感情を表に出すことも少ない。このヒロインの性格設定を、視聴者がどう見たかによって評価が分かれるだろう。

 正直なところ、清原果耶ファンの私が見ても、中盤まで首をひねるようなストーリーが多かった。高校を卒業したモネは、登米市の森林組合で働き始める。これはおじいちゃん(藤竜也)のコネで、友人のサヤカさん(夏木マリ)にお願いしたからである。おまけにサヤカさんの家に居候している。モネの願いは地元の役に立つ仕事をすることである。森林組合で働くのも充分地元に貢献できると思うが、気象予報士になって東京で働きたいと言ってあっさり森林組合を辞めるのだ。親切にしてくれた森林組合や登米市の人に失礼ではないだろうか。気象予報士になるにしても、ほとんど自分では勉強していない。偶然登米市に来ていた医師の菅波(坂口健太郎)につきっきりで教えてもらい、やっと気象予報士の試験に合格する。「医師ってそんなに暇なの?」と思ってしまう。

 東京に出たモネは、ウェザーエキスパーツという気象予報会社で働きはじめる。これも森林組合時代に知り合った朝岡(西島秀俊)を頼ってのコネである。おまけに朝の情報番組の中で、いきなりパペットを使って出演するようになる。こんなに都合よく行くことがあるだろうか。モネと菅波が、モネの下宿先の銭湯に併設しているコインランドリーで再会するに至っては、もうあまりのご都合主義に苦笑するしかなかった。大学病院の医師である菅波の住んでいる部屋には洗濯機もないのだろうか?

 東京時代のストーリーでは、車いすマラソンの鮫島(菅原小春)や、決して姿を見せない宇田川さんのエピソードなど、見どころもあった。情報番組の責任者・高村(高岡早紀)は存在感があったし、神野マリアンナ莉子(今田美桜)も可愛かった。モネは天気予報のコーナーを任せられるようになり、気象予報士として活躍するのかと思っていたら、これまたあっさりと辞めて地元に帰ってしまう。「地元の人たちの役に立ちたい」という理由だが、何だか説得力に乏しく、勝手な行動に見えてしまう。どの都道府県もそうだが、地元には地元のテレビ局などの情報源があり、きちんとした気象予報ができているだろう。モネの理想は分かるが、りょーちん(永瀬廉)の言う「きれいごと」に視聴者も思えてしまう。

 ドラマが盛り上がってきたのは、モネが島に帰ってからである。ここから主たる登場人物の心の闇が明らかになっていく。東日本大震災以来抱えていた心の闇である。終盤に至って、安達奈緒子さんがこのドラマで描きたかったテーマが徐々に分かってくる。最終週になり、妹の未知(蒔田彩珠)が抱えていた秘密をモネに告白する。最終回、モネも震災以来開けることのなかったサックスの入ったケースを開ける。ここでやっと「おかえりモネ」の「おかえり」の本当の意味を視聴者は理解するのだ。

 りょーちんは自分で買った船で漁に出る。りょーちんの父親の新次(浅野忠信)は息子の出航を見届ける。モネの父親の耕治(内野聖陽)は牡蠣の養殖を継ぐべく海に向かう。

 数年後、モネ母親の亜哉子(鈴木京香)は自宅で子ども相手の塾を開いている。浜で一人佇むモネ。振り返ると菅波が立っている。2年半ぶりの再会である。菅波は新型コロナウイルスに対処するため大学病院に呼び戻されたが、ドラマにはコロナの「コの字」も出てこない。二人は抱き合い、手を取り合って歩むところでドラマは終わる。

 これは、東日本大震災から10年をかけての心の復興の物語だ。海によって壊滅した街と人々の心が、やはり海によって立ち直っていく。この大河ドラマのようなストーリーに登場人物はあてはめられているのだ。終盤の展開は全ての登場人物にスポットを当て、心の闇に寄り添っている。ドラマとして見事な伏線回収と言えるだろう。勿論、視聴者の賛否が分かれるのも理解できる。

 りょーちんを演じた永瀬廉の演技には感心した。蒔田彩珠は是枝裕和監督の映画に出ている時から注目していたが、これからが楽しみだ。その他、恒松祐里、前田航基、髙田彪我、清水尋也、森田望智など、若手が適材適所の役柄だった。今田美桜には再注目した。ちょっとだけ出た石井あかり役の伊東蒼の演技力には感心した。また、あまり語られないが、高木正勝さんの音楽が効果的で素晴らしかった。

 この異色の朝ドラ「おかえりモネ」が失敗作だったのか、あるいは「稀有な傑作」だったのか、その判断にはもう少し時間が必要だろう。ただ、今までにないヒロイン像を描いたことは事実である。その挑戦は覚えておきたい。ずっと受けの演技をした清原果耶は、やはり実力のある若手女優だと思う。

 最後に一つケチを付ければ、りょーちんはずっとモネのことが好きだったはずである。モネもりょーちんの気持ちが分かっていた。だから東京で未知が菅波に対して「この二人(モネとりょーちん)は昔から通じ合っていて…」と感情的になってしまったのだ。りょーちんがどこでモネを諦めたのか、そこが描かれていなかったと思うのは私だけだろうか?

 

 11月1日(月)から始まる朝ドラの新作「カムカムエヴリバディ」は、私の住む岡山からストーリーが始まるという。また見逃せない日々になりそうである。