(先週からの続き)

 YAMAPアプリを見ながら少し思考が停止したが、このまま先へ行ってはいけないことだけは判断できた。そして、来た道を引き返した。

 そこからは、どこをどう歩いたのか、ほとんど記憶がない。途中で来た道からも外れ、気が付くと再び谷底のようなところにいた。さきほど二人連れを見た谷底とは違うところだった。なぜそこへ下りたかというと、赤テープがあったからである。木に巻きつけられた赤テープが2か所あった。かすかだが踏み跡もある。すぐ下には沢が流れていた。

 赤テープを起点に、踏み跡を沢に沿って登ってみた。しかし、すぐに行き止まりになった。今度は赤テープから下りてみた。すると、5分も経たないうちに踏み跡がなくなった。これはどっちに行ったらいいのだろう。YAMAPアプリで行程を調べると、歩いたルートに戻るには沢を渡るしかない。思い切って沢を渡って斜面を登りかけたが、ヤブに阻まれて先へ行けそうにない。無理をして登ると、バランスを崩して滑り落ちそうである。これは困ったと思い、再び赤テープの辺りまで戻った。

 時刻はお昼を過ぎていた。空腹を感じたので、ザックを下ろしておにぎり一個を口に入れた。しかし、気持ちが焦っているためか、喉を通らない。無理をして水分で流し込んだ。それからは同じところを登ったり下りたりして、時間だけが過ぎていった。こんなことなら、先行していた4人組と一緒に行動していれば良かったと思った。今頃あの4人組はルート外れに気付いて元の登山道に戻り、下山しているか、隣の剣山に登っているに違いない。

 体力はまだ残っているが、持っていた3本のペットボトルの内、2本をここで飲み切ってしまった。いざとなれば沢の水を飲むしかないと思ったりした。そして、心のどこかで救助要請をした方がいいかもしれないとも思った。

 考えてみてほしい。山の中で道に迷い、たった一人で抜け出せない時の絶望的な孤独感を…。この頃の写真が全くないのは、写真を撮る余裕がなかったからである。3年前の毛無山で道に迷った時よりも絶体絶命だと思った。あの時、午後2時になっても元の登山道に復活できなかったら、救助のための電話をしようと思っていた。今回も2時まで一人で行動してみよう。

 再びYAMAPアプリを開いて、冷静になって考えた。どうして同じところから抜け出せないのだろうと。そこでふと気づいた。この赤テープは登山ルートを示すものではないのではないかと。ひとまず赤テープから離れてみよう。

 沢のある谷底から斜面を登ってみた。尾根筋が上に向かって伸びている。その尾根筋を登った。しばらく経ってYAMAPアプリを見ると、迷いながらも一度歩いたルートに戻っていた。更に先に進むと、4人組と離れたところに出た。明らかに見覚えがある。その先を少し登ったヤブの中が、ルートを最初に外れた地点だと確信した。ヤブを抜けると登山道が見えた。「助かった!」と思った。疲れがドッと出た気がした。約2時間半、三日月山で道迷いをして迷走していたのだから疲れを感じるのも当然だ。

 すぐに剣山との分岐まで戻ってきた。大汗をかき、脚はガクガクだった。このまま登山口まで戻り、早く家に帰りたかった。しかし、今日の登山のメインは隣の剣山である。何とか頑張って剣山にも登ってみようと思い、剣山に続く右手の登山道に入った。

 剣山の登山道は三日月山に比べたら夢のような快適さだった。鉄塔の下を通ったり、避難小屋を通過したりした。そして、あっという間に頂上に着いた。時計を見ると14時17分、三日月山の分岐から約30分だった。

 頂上広場には誰もいなかった。やや曇っているが、360度の大展望を独り占めだ。2年前とは反対に、いぶきの里から続く花見山がよく見える。その奥にはぼんやりと大倉山まで見えた。そして何より驚いたのは、頂上広場がお花畑状態だったことである。蝶々も群れ飛んでいた。ここでやっと残っていたおにぎり2個を食べた。

 15分くらい頂上に滞在して下山にかかった。よく整備された道なので、走るように下山することができた。明地トンネル手前の駐車スペースに着いたのは14時55分だった。20分くらいで下山完了。三日月山での道迷いがなければ、12時半頃には下山していたはずである。ひとまず無事にこの日の山登りを終えたことに安堵した。

 帰路につきながら考えた。どうして道迷いをしてしまったのか。

 ・安易に人の後をついて行ってしまった。

 ・道迷いに気付いた時、すぐに元のところに戻らなかった。

 ・赤テープを頼り過ぎてしまった。

 ・冷静さを失い、YAMAPアプリを有効に使えなかった。

 全て道迷いをする時の定番パターンだ。2度と同じことを繰り返さないようにしたいと思った。反省するばかりである。