幼馴染のY君が亡くなったという電話を実家の母から受けたのは、去年の今頃である。最初は母が何を言っているのか理解できず、自分の胸の中に入ってくるまでに少し時間がかかった。自殺であったということが、さらに気持ちを混乱させた。

 Y君とは幼稚園からの付き合いである。小学6年生の時には、一緒に児童会の役員をしたこともある。中学まで同じ学校だったが、とにかく頭が良かった。特に親しいというわけではなかったものの、いつも気になる存在だった。。そのY君が中学2年生の時だったか、精神が不安定だという噂があった。学校も休みがちだということだった。その頃Y君と疎遠になっていた私は、噂を聞いただけで、特に気にも留めなかった。ところが高校受験の時、Y君は高校を受験しなかった。結局、1年遅れで遠くの私立高校に入学して通学しているということだった。その頃はもう、全く付き合いはなかった。

 そのY君と久しぶりに会ったのは、大学生の時である。お正月、友人のM君と一緒に女の子の家に遊びに行こうという話になった。誰か誘ってと思った時、何故だかY君を思い出し、突然家に押しかけた。何年かぶりで会ったY君は、以前よりも少し太っていたものの、すっかり健康そうに見えた。3人で女の子の家に行き、お正月の無礼講で、飲んだり食べたり大騒ぎをした。そんなY君も含めた馬鹿騒ぎの正月が3年くらい続いた。正月に年に一回だけ会い、お互いの近況を報告しあった。Y君は1年遅れで大学生になっていた。中学の頃に精神的に不安定になっていた時のことや、高校の頃のことは、あえて話題に出さなかった。

 Y君と最後に会ったのは、私が大学を卒業する年の正月、小学校の同窓会の時である。2次会まで一緒に行き、Y君も私もけっこう飲んでいた。飲み過ぎで体調が悪くなった私は、他の人には内緒で、Y君と恩師の先生とタクシーに乗り、途中で帰ってきた。Y君の方が先にタクシーから降り、「それじゃあ、また」と声をかけたのがY君を見た最後である。その後Y君は上場企業に就職し、部長クラスまで出世しているということだった。

 自殺した時、Y君は離婚して、定職に就いていなかったという。20年以上会っていなかったY君。今となっては、小学生の時の成績抜群で、優等生だったY君の姿ばかりが思い出される。もう一度会ってみたかった。せめてこの時期になったら、Y君のことを思い出そうと思う。