金目鯛の煮つけが象徴するもの
「金目鯛の煮つけ」が収録された、いわゆる「ご飯EP」は2021年9月15日にリリースされました。
コロナの真っ只中です。
以下は「金目鯛〜」リリース時の桑田さんのコメントです。
「コロナ禍で厳しい環境にある現在でも、何気ない日常やささやかな幸せに感謝しながら、どんな時も笑顔で生きていきたい」
当たり前だった「何気ない日常」がコロナにより当たり前ではなくなってしまいました。
外出は制限され、マスクの着用が義務的になり、ソーシャルディスタンスなるものが奨励されました。
誰もが「何気ない日常」の有難みを痛感していた時期でした。
小さな生命(いのち)があなたに宿る
どんな世の中をこの子と生きる
甘辛く煮た金目鯛
静かに時間(とき)が通り過ぎる
麗(うるわ)しいあなたと共に生きられる
こんな俺だけどありがとう
ささやかな幸せに満ちた家庭が目に浮かぶようです。
食卓に登場する「甘辛く煮た金目鯛」は桑田さんにとって「何気ない日常」や「ささやかな幸せ」の象徴なのです。
昭和礼賛
太陽が名残惜しそうに消えた
街の灯が眠たそうに目を覚ます
家路遥かな帰り道
黄昏色の雲は流れ
満員電車にゴトゴト揺られて
駅裏に掃き出された人ごみ
胸が切ない夜もある
俯(うつむ)かないで家へ帰ろう
夢も希望も胸に生きてたつもりが
何処かで失くしたモノばかり
悲しみを迎えに行くのは止めたよ
明日は笑顔でいるために
小さな生命(いのち)があなたに宿る
どんな世の中をこの子と生きる
甘辛く煮た金目鯛
静かに時間(とき)が通り過ぎる
麗(うるわ)しいあなたと共に生きられる
こんな俺だけどありがとう
毎日すれ違う気まぐれな風に
吹かれて飛ぶようなシャボン玉のように
しかし、「金目鯛の煮つけ」が「何気ない日常」や「ささやかな幸せ」を象徴するのは昭和の時代かと思います。
金目鯛の煮つけが供される食卓は畳に置いたちゃぶ台がより似合うのではないでしょうか。
ドリフで志村けんがやっていたコントのような時代っていうのかな。
仕事から帰宅したサラリーマンの夫に主婦である妻が、「お風呂にする?ご飯にする?」と聞く、あのころの時代です。
令和にあっては金目鯛の煮つけがささやかな幸せの象徴として機能するかと言えばピンときません。和食以外にもイタリアン、中華、韓国、タイ、ベトナム料理など多国籍料理を食すようになった我々日本人。現代の「金目鯛の煮付け」は人それぞれかも知れません。
桑田さんは前作「がらくた」から昭和を礼賛してはばかりませんが、コロナで日常生活が制限されたとき、また再び戻りたいと思ったのは昭和の日常だったのではないでしょうか。
SOMPOグループCMソング
この曲はSOMPOグループのCMソングとなり桑田さんもサラリーマンに扮してCMに登場しました。
CMには金目鯛が登場し、そこからこのタイトルに決定したようです。
ノスタルジックなイントロ、朗々と歌い上げる歌唱法が昭和歌謡を彷彿とさせます。
サビは必殺のコード進行でせつなさを掻き立て、原坊のコーラスも絡み、もはやサザンナンバーと言っても過言ではありません。
コンサートの動画がYouTubeにアップされています。
バックスクリーンに映し出される黄昏色の風景、鎌倉、江ノ電、桑田さんがあの頃を過ごした場所です。
最後は食卓に供された金目鯛の煮つけでフェイドアウト。
ちゃぶ台ではありませんが・・・