「ヨシ子さん」というタイトルからして何ともつかみどころがないですね。
昭和だったら「ヨシ子」と呼び捨てのタイトルでラブソングもあり得たかも知れませんが、この曲がリリースされたのは2016年6月29日、平成も間もなく終わりになろうかという頃です。
それに「ヨシ子」にさん付けですからラブソングではなさそう。
「ヨシ子さん」、何やらお茶らけた雰囲気が漂います。
このタイトル、初代林家三平の鉄板ネタともスタッフの名前から取ったともいわれています。
私は原由子さんの訓読みがヨシコさんだからかと最初は思いました。
タイトルの由来は判然としませんが、桑田さんが生まれ育った昭和という時代の象徴であることは間違いなさそうです。
「ヨシ子さん 好きさ」
「ヨシ子さん ノー・リターン」
「ヨシ子さん」のところに「昭和」という言葉がすっぽり当てはまりそうです。
さて、「ヨシ子さん」は昭和のオッサンが、平成の終わりの世にわからないことだらけなのを嘆く歌です。
そこに己の世代の音楽アイテムを差し挟んで対抗します。
「サタデーナイトはディスコでフィーバー」
「“ナガオカ針“しか記憶にねぇよ」(ナガオカ針→レコード針のこと)
「『くよくよするな』ってディランが歌ってた」
「なんやかんや言うても演歌は良いな」
そして、この曲がリリースされる少し前の2016年1月10日に亡くなったデヴィッド・ボウイに言及します。
「『ブラック・スター』でボウイさんが別れを告げた」(※「ブラック・スター」はボウイのラストアルバム)
デヴィッド・ボウイの死を我らの時代の終わりとして象徴的に扱います。
R&Bって何だよ、兄ちゃん(Dear Friend)?
HIPHOPっての教(おせ)えてよ もう一度(Refrain)
オッサンそういうの疎いのよ 妙に
サタデー・ナイトはディスコでフィーバー
チキドン(チキドン)
チキドン(チキドン)
チキドン
EDMたぁ何だよ、親友(Dear Friend)?
“いざ”言う時に勃たないヤツかい?
“サブスクリプション”まるで分かんねぇ
“ナガオカ針”しか記憶にねぇよ
チキドン(チキドン)
チキドン(チキドン)
チキドン
可愛い姐ちゃんに惚れちゃったんだよ
ヨシ子さん 好きさ
「くよくよするな」ってディランが歌ってた
Everybody say, Ah…Ah…Ah…Ah
真夏の太陽 スゲェ High!!
情熱の恋に燃えて 礼(らい)!!
青春はお洒落でスゲェ High!!
ニッポンの男達(メンズ)よ Are you happy?
オリエンタルでエキゾチックでシュールで無国籍なサウンド。元々はボ・ディドリービートのバンドサウンドだったようです。
ボ・ディドリービートは文字通り、ボ・ディドリーというミュージシャンが有名にしたビート。
サザンで言うと「神の島、遥か国」がボ・ディドリービートになります。
ライブ映像ではバンド演奏によるボ・ディドリービートの「ヨシ子さん」を聴くことができます。
バンドサウンドの「ヨシ子さん」でリリースしてたらこの曲の評価も当然変わったでしょう。
普通にかっこいいロックナンバーとして愛されたと思います。
しかし、桑田さんはそれで良しとしなかった。
すでにサザンでやったボ・ディドリービートのナンバーをリリースするなんてつまらない。
もっと向こう側に突き抜けるような、還暦迎えて尚、誰よりもふざけて、とんがって、実験的な姿勢を見せつけたかった。
その結果が現在の「ヨシ子さん」に結実したのだと思います。
私は個人的にはボ・ディドリービートを強調したバンドサウンドの「ヨシ子さん」が好きです。
単純にかっこいい、それで十分なんです。
ところで、PVやライブに登場するヨシ子さん。
扮するのはサザンのバックダンサー、佐藤郁実さん、出身は茅ヶ崎でいらっしゃいます。