サザンのスターティングオーバーとなった「葡萄」は愛と平和を唱えるアルバムです。

「Missing Person」、「ピースとハイライト」、「平和の鐘が鳴る」、「蛍」と実に4曲が「愛と平和」を主題にしています。


サザンのアルバムは幕の内弁当であり、多種多様なおかずが一つの箱に詰め込まれているのが常でした。

少なくとも4曲が同じテーマで一つのアルバムに入っていたことはかつてありませんでした。

まして「愛と平和」というこれまでのサザンにとっては副次的に過ぎなかったテーマをメインテーマに据えて。

これはバンドのアイデンティティをも見直す大転換と言えるでしょう。



今の私を支えるものは
胸に温もる母の言葉
若い命を無駄にするなと
子守唄を歌いながら

過ちは二度と繰り返さんと
堅く誓ったあの夏の日
未だ癒えない傷を抱(かか)えて
長い道を共に歩こう


悲しみの青空
忘れ難き顔と顔
平和の鐘が鳴る
あの音は誰のために
貴方(You)



子供の頃に戦争を体験し、「未だ癒えない傷を抱えて」戦後を生きていく。

沖縄に、広島に、長崎に、東京に、日本全土に平和が訪れ、死者の魂に弔鐘を鳴らす。

胸に沁み入る鐘の音を聞きながら、戦争を幻視し、死者に想いを馳せ、平和を噛み締める。


「日本人は様々な悲しい時代を必死に生きてきた。空襲、震災と、何度となく焼け野原を体験しては立ち上がってきた。正直、よくこれほどまでに立ち上がってこられたものだと思う。きっとあの青空に侘びや寂びを込め、笑顔を絶やさずに生きてきたのだろう。」(桑田佳祐「葡萄白書」)






「私にはこれまで実行してきたことがひとつある。それはサザンのアルバムの中に必ずハチロク(8分の6拍子)の曲を入れるという小さな計画だった。3連符のロッカバラードと言えばいいのか。『熱い胸さわぎ』なら「恋はお熱く」、『ステレオ太陽族』なら「栞(しおり)のテーマ」、『キラーストリート』なら「ひき潮〜Ebb Tide〜」がそうだった。今回もこの曲でそれが実現できて大変満足である。」(桑田佳祐「葡萄白書」)


アレンジにおいてはストリングスを大々的に導入。

これまでストリングナンバーはアルバムのラスト一曲というのが常套でしたが、「葡萄」では「はっぴいえんど」、「彼氏になりたくて」、「平和の鐘が鳴る」、「蛍」で使われています。


サザンのストリングスアレンジと言えば島健さん、金原千恵子さん。

特に島健さんは、「アロエ」、「天井棧敷の怪人」、「ワイングラスに消えた恋」にも携わっています。

「葡萄」サウンドのキーパーソンですね。