「ピースとハイライト」はサザン復活第一弾シングルとして2013年にリリースされ、後にアルバム「葡萄」に収録されました。

2008年に無期限活動停止を宣言し、5年間の空白の後、この曲で復活を遂げた意義は大きいと言えます。


サザンと言えば夏、復活はサマーソング(「みんなのうた」「涙の海で抱かれたい~Sea of Love~」)が定番でした。

しかし今回は、これまでのサザンサウンドを踏襲しつつ、「愛と平和」を歌うバンドとして復活の狼煙を上げました。

これは、バンドのブランドイメージを一新しようとする行為であり、活動休止前に桑田さんが話されていた「アップデートして戻ってくる」の実践に他なりません。


「夏をイメージした楽曲もその気になれば制作できたが、新たなファンを呼び込むために刺激のあるプランとして自分たちと現実社会の距離を測った曲で新たなスタートを切りたかった」(桑田佳祐「葡萄白書」)



何気なく観たニュースで
お隣の人が怒ってた
今までどんなに対話(はな)しても
それぞれの主張は変わらない

教科書は現代史を
やる前に時間切れ

そこが一番知りたいのに
何でそうなっちゃうの?

希望の苗を植えていこうよ
地上に愛を育てようよ

未来に平和の花咲くまでは…憂鬱(Blue)
絵空事かな?お伽噺かな?
互いの幸せ願うことなど


歴史を照らし合わせて
助け合えたらいいじゃない
硬い拳を振り上げても
心開かない


都合のいい大義名分(かいしゃく)で
争いを仕掛けて

裸の王様が牛耳る世は…狂気(Insane)
20世紀で懲りたはずでしょう?
燻る火種が燃え上がるだけ

色んな事情があるけどさ
知ろうよ 互いのイイところ!!

希望の苗を植えていこうよ
地上に愛を育てようよ
この素晴らしい地球(ふるさと)に生まれ
悲しい過去も 愚かな行為も
人間(ひと)は何故に忘れてしまう?

愛することを躊躇(ためら)わないで







「ピースとハイライト」にはディランからジョン・レノンへの変遷が見られます。

難解な言葉の連射で体制を批判するディラン的スタイルから、平易な言葉で平和を訴えるレノン的スタイルへの変遷。


実際、「ピースとハイライト」の歌詞が、ジョン・レノンの歌詞の翻訳としてPVに登場します。


「何気なく観たニュースで」

「I saw the news today, oh boy」

これはビートルズ、ジョンレノン作「A Day In The Life」の冒頭の歌詞で、オリジナルは「I read the news today,oh boy」


「絵空事かな?お伽話かな?互いの幸せ願うことなど」

「Am I a dreamer?

I’m not the only one」

これは「イマジン」の見事な翻訳。


ジョン・レノンはより多くの人に聴いてもらいたいという想いから「イマジン」の歌詞をわかりやすい英語で書きました。


「ピースとハイライト」の歌詞も小学生にも理解できる日本語で書かれています。

「公序良俗なす高嶺のブタ共に見た料亭の魂」(漫画ドリーム)

などと歌っていたディラン的難解さとは大きな隔たりがあります。


「教科書は現代史をやる前に時間切れ」

だからこそ、国民的歌手の影響力を駆使して、より多くの人に現在の国際問題を周知し、平和のメッセージを理解してもらいたいという意図が込められているのです。


さて、この曲、アルバム「葡萄」では「Missing Persons」の次に収録されています。

拉致問題を扱った「Missing Persons」から「ピースとハイライト」まで、連続性を持たせることで、対話による国際問題の平和的解決を訴えています。


サウンドはいつも通りのサザン。

カスタネットをフィーチャーしたウォール・オブ・サウンド、夏の歌詞を添えればサザンの定番ソングとなったはずです。

しかし、ラディカルに変遷したテーマと共にサウンドまで変えてしまったのでは、これまでのファンが離れてしまうかも知れない。そうしたら、せっかくのメッセージが広く届かないかも知れない。

そこで、サウンドやメロディと言った耳触りはそのままに、テーマのみを変えて大衆の意識を喚起することに成功しました。

そのメッセージには賛否両論ありましたが、それも桑田さんの望むところ。

議論が炎上🔥することでより多くの注目を集めたのです。

マーケティングの勝利です🏅