短編小説のようなナンバーが桑田さんには数多くあります。

「Live Affair」、「Lonely Woman」、「So What?」、「栄光の男」などなど。

場面、キャラ設定が明確で、聴くと情景が目に浮かび、物語の世界に入り込んだ気分になります。


失恋歌、応援歌、風刺歌といった心情を吐露したナンバーではなく、登場人物と距離を取り、神の視点で描く物語です。


アルバム「葡萄」(2013)、2曲目に収録された「青春番外地」もその系譜に属するものです。



今日も酒場は酔いどれパーティー
女たらしでサイテーな俺
桜吹雪がふんわり舞って
ひとり歩く 番外地

あの娘(こ)はこんがらがった擦れっ枯らし
タバコふかして
イキがって喧嘩に負けた時
見向きもされず


色っぽくて 気も強えし
啖呵切りは ハンパねぇし
こんな坊っちゃんで良ければ
遊ばないかな?


縁があって 楽団のバイトして
授業をサボり
ピンク映画 歌舞伎町とハシゴして
身も打ち震え


ディスコティーク 泡姫
葉っぱスイスイ 川下る
トンだギッチョンと
仲間に呼ばれた俺







「ピンク映画」「歌舞伎町」「ディスコティーク」「泡姫」「葉っぱスイスイ(マリファナ吸い吸い)」といったキーワードから、大学もろくに行かず、夜の歌舞伎町を漂流するフーテン学生が目に浮かぶようです。


「青春番外地」と言うタイトルは、属する場所のない青春、あるいは、そして誰もがいなくなった みんな全てが消えてしまった

桜吹雪がふんわり舞って 嗚呼 青春番外地」という最後のフレーズから青春のたどり着いた先が番外地だったとも受け取れます。


無頼派の青春を生き抜いた若者のやるせない物語。なかなかの傑作です。


若き桑田さんの自伝的要素があるのかと思いきや、「このペルソナはもっと泥臭く生きている人なんですよね。そういうところをなんとなく僕は避けてきたんでね。」(ロッキンオンジャパン2015年4月号)


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マイナー調のフォービートで曲はテンポよく進みます。人生どこか投げやりだけど、威勢がいい。

桑田さんは酒で枯れたようながなり声でペルソナを生き生きと演じます。


また、「呑んで呑んで」「泣いて泣いて」「嫌だ嫌だ」の合いの手コーラスが実に効果的です。

このコーラスがなかったら曲の魅力は半減していたはずです。このようなアイデアを引き出しから取り出して使えるのが桑田さんの才能だと思います。


ところで、私はボーカリストには2つのタイプがいると思っています。

フレディ・マーキュリーのような声のよさと圧倒的な歌唱力で聴かせるタイプ

ミック・ジャガーのような多彩な歌い方、声の演技力で聴かせるタイプ

桑田さんは後者のタイプだと思います。

その演技力を駆使した桑田さんのボーカルに2013年の主演男優賞を献上したいと思います。