2008年、無期限で活動を停止したサザンオールスターズは、2013年に思いがけず復活を遂げました。
「思いがけず」と書いたのは、サザンの活動再開は二度とないと思われたからです。

そもそもサザンはデビュー10周年以降、桑田さんの気分次第で活動するような状態でした。
サザンという存在のリマインドのためのシングルリリースがある程度で、アルバムにいたっては例えば「さくら」から「キラーストリート」までは7年の空白があり、その間、活動休止宣言などはありませんでした。
宣言なしでこれだけ希薄な活動なのだから、宣言が付けばもはや再開は皆無だろうと思いました。

しかし、2013年に「ピースとハイライト」をリリースし、思いがけずの嬉しい復活となりました。

では、何が桑田さんをしてサザンを復活せしめたのでしょうか? 彼に心境の変化をもたらしたものは一体何だったのでしょうか?

主な理由は2つあります。
一つ目は大病をわずらったこと。
桑田さんは2010年、食道癌という大きな病を経験されました。
この時、命には限りがあるという自明のことを、身をもって痛感されたのです。
それは当然にキャリアの期限でもありました。
無期限休止という逃げ道を残し、気が向いたらやればいいと考えた「サザンの桑田」は、大病によって否応なしに期限を突きつけられたのです。

もうひとつは東日本大震災です。
大地震とそれに続く大津波により多くの命が奪われました。
生きて活動を続けたかった人たちが無情な自然の猛威により人生を唐突に断ち切られました。
震災直後に多くの遺体が収容された宮城のスーパーアリーナで桑田さんはコンサートを開催しましたが、会場入りすると、死者のご冥福をお祈りされました。

これらの経験は桑田さんの心境を変えるには十分でした。
震災後、日本全土が悲しみに包まれている。
サザンが活動を再開すれば多くの人を励ますことができる。
自分はと言えば、病が再び牙を剥かないとも限らない。
そのときサザンの復活は二度とないかもしれない。
今しかない・・・
そんなふうに桑田さんは考えたのではないでしょうか。

というわけでシングル「ピースとハイライト」(2008)「東京VICTORY」(2014)に次いで遂にリリースされたアルバム「葡萄」(2015)。
その一曲目が「アロエ」です。
つかみどこのないタイトルですが実際歌詞との関連性はありません。
桑田さんはデタラメな歌詞を歌いながら作曲をするいわば曲先ですが、そのとき「anyway 」と歌っていて、語感が似ている「アロエ」が思い浮かび採用されたそうです。


だから勝負、勝負、勝負出ろ!!

勝負に行こう!!
カラダ勝負、勝負、勝負出ろ!!
止まない雨はないさ

だから勝負、勝負、勝負出ろ!!
陽気に行こう!!
あ、ちょいと勝負、勝負、勝負出ろ!!
明けない夜はないさ
乗り越えなさい 幸あれ

悲しい事は 言葉に換え
星を見上げて そっと歌うといいよ

キミが生まれて 出会えた事
その事だけで みんな幸せなんだ

もし夢が叶うなら
この愛を受け止めて







桑田さんいわく歌詞は「元気のないツレを励ましている」。
なるほど、心に刺さるフレーズが随所に光ります。
しかし、真面目なことを真面目に歌うと重くなり過ぎるからあえてタイトルや曲調は軽いノリで相殺したのでしょう。デビュー時からの優れたバランス感覚は未だ健在です。

Aメロ、Bメロはスローテンポで歌えば、歌詞の見事さも相まって歌謡曲の傑作となったでしょう。
しかし、そんな曲はサザンにはいくらでもあります。「勝手にシンドバッド」「艶色THE NIGHT CLUB」「ボディ・スペシャルII」「HOTEL PACIFIC」…
そこを敢えてダンスビートに速度を上げることで、歌謡曲をベースにした日本のポップバンド、サザンオールスターズの真骨頂を示したのです。

ライブで盛り上がるアッパーソング、サビはアロエダンスで踊るも良し。
歳をとっても辛いことがあっても、サザンはいつだって素敵な音楽と笑いで私たちを励ましてくれる。
復活の幕開けにふさわしいナンバーと言えるでしょう。