「本当は怖い愛とロマンス」はソロ13枚目のシングルとして2010年8月にリリースされ、後にアルバム「MUSIC MAN」に収録された。


テーマは失恋。
桑田さんお得意のテーマだ。
しかし、アプローチはこれまでと全く異なる。
「傷だらけの天使」もそうだが、失恋を描くタッチは軽く、深刻さは微塵もない。

サザン、Kuwata  Band、Keisuke  Kuwataの失恋は恋しくて切なくて悲しくての三拍子、それこそが桑田さんのシグネチャーであった。
深い傷を抱え、涙を流し、水平線に向かってマイナー調の叫び声を上げる。
そこにかつての多くの若者が共感し、彼らが大人になった今、桑田さんの名曲群は時代を越えてアンセムとなった。
「切なさの日本基準」と雑誌「SIGHT」でも書かれたように桑田さんのバラードはまさに日本人の失恋物語そのものだった。

ところが「本当は怖い〜」は趣が異なる。
そこに切なさはない。
恋に対する男の姿勢がそもそも違う。
それは命を賭すような真剣なものではなく、手っ取り早く一発ヤルことを目的としている。
食事を奢り、マウントを取った気になり「ふざけて胸を撫で」しかし「突然キレ」られ「おさらば」される。
「今まで何をしたって許してくれた」と言うことは、女性に対するセクハラともとれる行為は初めてではない。
ノリが軽い分、フラれた時のダメージも軽く、上手くいかなければあっさりと次に行くことは容易に想像がつく。
「本当は怖い」などと言っている時点で恋愛を甘く見ている証拠だろう。


誰かに甘えてみたくて
ふざけて胸を撫でた
"君も微笑(わら)ってくれる"と
いつものようなノリだった

今まで何をしたって
許してくれたじゃない
積もり積もった想いが
君の中で今、燃え上がる

本当は怖い愛とロマンス
突然キレて おさらば
こんなに弱い駄目な僕を
切り捨てる 魔女のように



結果、付されるメロディはマイナー調のバラードではなく、ビートルズ「レディ・マドンナ」を下敷きにしたアップテンポなポップソングとなった。

「エンディングのスキャットなどビートルズの『レディ・マドンナ』のニュアンスから始まって、途中からは、もう色々なビートルズのエッセンスをたくさん入れてしまおうと、最後には開き直って楽しみながら作っていった曲である。」(桑田佳祐ライナーノーツより)