「声に出して歌いたい日本文学」がリリースされたのは2009年。シングル「君にさよならを」に収録された。
夏目漱石、石川啄木、与謝野晶子、宮沢賢治など日本文学史に残る作家の名作にメロディを付して歌った。
この中で取り上げられたのが芥川龍之介の「蜘蛛の糸」
お釈迦様が垂らした蜘蛛の糸につかまって、極楽に登ろうとする罪人の話だ。
この「蜘蛛の糸」に登場するお釈迦様や蓮池といった極楽浄土のイメージがこの曲のインスピレーションになっている(と思う)



あれは泥酔で帰宅途中のFriday night

夢を見たのかい!? No, no, no
道に迷ったかい!?
水面に浮かぶ花を見て眩暈がしたよ


見上げりゃ御来光が差して来て
宴が始まるCarnival

ここは何処だろう!? Dance, dance, dance
この世の果てかい!?
美しい女性(ひと)が微笑み手招きしてる

I wanna be your lover.
なんてSpiritual その胸に抱かれて
You're gonna give me a power.
お釈迦様よ Everything's gonna be alright.

I wanna be your lover.
妖艶Visual その愛に溺れて
銀河の星屑になった気がした








このユニークな歌詞について桑田さんがライナーノーツに書いている。

「この曲を聴いて、たぶん大抵の方は、私が病気発覚後に歌詞を書いたと思うであろうが、期待を裏切って申し訳ないが、不思議なことに歌詞はそれ以前にできていて…」(桑田佳祐ライナーノーツ)

桑田さんはこの曲が収録されているアルバム「MUSIC MAN」製作中に癌を患った。死後の世界を歌うこの歌詞は癌発覚後に書かれたのではないかと推測されるかもしれないが、実はその前に完成していたとのことである。

「ひとりで考えては暗くなるものを、死後の世界を歌にしてみんなで共有、共鳴し合えるのも楽しいことではないか! お釈迦様が美人で優しい人だったらもっといいのではないか、といった幻想を抱きつつ、この歌はあくまでも大人達のための、エロチシズム漂う絵本のような物語なのだ。」(桑田佳祐ライナーノーツ)


「お釈迦様が美人で優しい人だったら…」という発想がすごい。
確かにこの歌の通りであればもう死ぬのは怖くない。
「太陽と死は直視できない」というラ・ロシュフーコーの箴言を覆す、楽しそうな死後の世界が描かれている。


音楽的影響については80年代のファンカラティーナ、「デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ」「カルチャークラブ」の名前を桑田さんがライナーノーツで挙げている。
本人が仰るのだからその通りなのだろうが、一聴して思い浮かぶのはボブ・ディランの「ハリケーン」だ。
殺人の冤罪により服役したボクサーを歌うが、バイオリンのリフが印象的な一曲。
「銀河の星屑」も金原千恵子氏が奏でるバイオリンのフレーズが「ハリケーン」同様、曲の要となっている。
「銀河の星屑」を口ずさむとき、自然と出てくるのはバイオリンのフレーズだ。

間奏も素晴らしい。
死後の世界のカーニバルに、嬉しくも戸惑う様がスリリングに展開され、大円団のサビへとなだれ込んでいく。

ディランの影響をうけつつも、Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→サビに代表されるポップソングの型に仕上げる。
「MUSIC MAN」桑田佳祐の本質はやはりポップミュージシャンなのだ。