「泥棒」とは不思議な言葉だと思う。
単独で使うと古めかしいが、修飾語がつくと小洒落た感じがする。
「おしゃれ泥棒」、「自転車泥棒」そして「恋の大泥棒」
ドロボーという語感の良さもあるだろう。
同義語でも「おしゃれ盗っ人」「自転車こそ泥」「恋の大窃盗犯」では使い勝手が悪過ぎる。


もう これ以上俺に近寄らないで
そう ハートを盗む罪な男さ

ダンチョね 惚れちゃァ負けさ
泣かないで ひとりの女じゃ駄目さ


I am the man.
浮世の"WANTED(おたずね者)"
言葉が旨い メチャ旨い
恋の大泥棒さ!!

Like no other can.
心の"HAUNTED(闖入者)"
狙った獲物は蛇のように
モノにするナンパ師


洒落たタイトルにブルーアイドソウル直系のサウンドから、「恋の大泥棒」はおしゃれな歌だと思い込んでいた。
歌詞にも登場する映画「おしゃれ泥棒」のようなオードリーヘプバーンが似合う歌、そんな色眼鏡をかけながらずっと聴いてきた。
しかしそれは的外れだった。


「歌詞の主人公は勝新太郎と田宮二郎の『悪名シリーズ』じゃないけれど、格好つけているのにちょっと間抜けな旅ガラスや任侠のような感じで、胡散臭さも漂うヤクザなペテン師のような、それなりのキャラクターにした。」(桑田佳祐ライナーノーツ)






「恋の大泥棒」はオードリーヘプバーン的おしゃれな歌ではなかった。
勝新太郎的、粋な歌だった。
なるほど主人公はスーツ姿のドンファンではなく、着物を羽織る女たらしなのだ。
任侠の世界を生きる黒い瞳の主人公に青い瞳の音楽(ブルーアイドソウル)を充てがうところが桑田さんの天才たる所以である。


「現在のダフィーや、かつてのウォーカーブラザーズを始めとする、60年代にイギリスで活躍したブルー・アイド・ソウルのグループのような雰囲気の曲をやりたくて、それを具現化した楽曲。(中略)
もしくは日本で言えば、昭和40年代の…後ろに大きめのフルバンドが控えていて尾崎紀世彦さんがエンゲルベルト・フンパーディンクの真似をしているような雰囲気。さらに言えば、スパイ映画の『007』のジョン・バリーの音楽のような、そんなイメージがどんどん湧いてきたのである。」
(桑田佳祐ライナーノーツ)


ブルーアイドソウルはウォール・オブ・サウンドの発展形だ。
フィル・スペクターファンの桑田さん、いつかはやってみたかったジャンルだったのだろう。















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