桑田さんはソロアルバムにコンセプトを持たせることでサザンとの差別化を図っていた。
 
 
「Keisuke Kuwata」=AOR
 
 
「孤独の太陽」=フォーク
 
 
 
「ROCK AND ROLL HERO」=ロック
 
 
それに対しサザンはコンセプトがないのがコンセプトだった。
一枚のアルバムにポップもロックもフォークもA O Rも詰め込まれていた。
 
2008年、サザンが無期限で活動休止を宣言したとき、桑田さんの中でソロ⇄サザン間の国境線は消滅した。
もはやサザンに遠慮をする必要はなくなった。
 
2011年にリリースされた、サザン休止後初のソロアルバム「MUSIC MAN」。
 
これは桑田さんによる一人サザンなアルバムとなった。
まさにサザンのアルバム同様、雑多な音楽が詰め込まれたコンセプトなきアルバムだった。
サザンの呪縛が解かれ、桑田さんは自由になった。
 
 
桑田さんは、1986年出版の自身のエッセイ「ケースケランド」で「音楽人」(MUSIC MAN)をすでに自称していた。
「MUSIC MAN」というタイトルは言わばビートルズのホワイトアルバム「THE BEATLES」でありサザン・オールスターズの「Southern All Stars」であり桑田佳祐の「Keisuke Kuwata」に次ぐ2度目のセルフタイトル、要は自信作の現れである。
 
 
 
 
 
冒頭を飾る「現代人諸君」は確信に満ちている。
新たな地平を行くその足取りに迷いはない。
自信作の幕開けにふさわしい堂々たる行進である。
  
エラい神経疲れる労働(ワーク)
絡み合う人間同士の思惑
割りに合わぬ日々の労苦
We're really crying.


言うことがブレまくりの党首
政府与党は所得(かね)を搾取
頼みの年金制度(ねんきん)も崩壊(クラッシュ)
They're really lying.


やるせない世の中を
生きるはHard & Toughだろう!?
寄辺なきこの時代(とき)を
闘い抜くは君と僕


頑張れ!! 現代人(イマジン)
Go for the next change.
明日(あした)への渡来人

ご機嫌よろしゅう!!
まだ見ぬ天国(ヘヴン)
悩み多き身分
泣きそうな気分
So I say"I love you."
 
 
 
 
 
 
「現代」を「いま」と読み、「諸君」を「オール・ザ・ピープル」と発す。
ご存知、ジョン・レノン「イマジン」の一節である。
 
「最終的な形に落ち着くまで何冊のレポート用紙を潰したことか・・・・・・。」(桑田佳祐ライナーノーツより)
 
完成までにはかなりの苦労をされたようだ。
しかし出来上がってみれば、リズムに乗せた歌詞の妙はついに頂点を極める。
格闘の痕跡など何処吹く風、培った経験とスキルが紡ぎ出す言葉は、跳ねるように軽やかだ。

 

サウンドはフォークロックというべきか。

桑田さんが世相を撃つときに身に纏うのはボブ・ディランの鎧である。

しかし、繰り返されるギターリフはハードロックの名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の変奏のようにも聞こえ、全編を通して鳴り続けるこのリフこそが「現代人諸君!!」のシグネチャーとなっている。

 

ソロ、サザン全てのアルバムにおいて一曲目は常に一際の煌めきを放つ。

「現代人諸君」も例外ではない。