映画「稲村ジェーン」のサントラは「SOUTHERN ALL STARS and All Stars」名義でリリースされた。
とはいえ、「and All Stars」の活躍ばかりが目立ち、「SOUTHERN ALL STARS」の影が薄い。
まるで桑田のソロアルバムにサザンがゲスト参加しているようだ。
アルバムの貢献度を考えるなら「ALL STARS and Southern All Stars」と記すべきだろう。
しかしこれはサザン10枚目のアルバムであり、ファンにもそのように受け入れてもらわなければならない。
では、どうするか。
これぞサザンのアルバム!と決定づける要素は何だろうか?
サザンのアルバムとソロアルバムとの明確な分水嶺はどこにあるのか。
そう、答えは原由子である。
彼女がリードボーカルを担う曲が入っていればそれはサザンのアルバムなのだ。
これほど分かりやすく決定的なサザンのアルバム定義はない。
「愛して愛して愛しちゃったのよ」は映画では使われていないが、サザンのアルバムとして成立させるために原由子のボーカルでラストを飾ることになった。
この曲は、「和田弘とマヒナスターズ&田代美代子」のカバーである。オリジナルのリリースは1965年6月。
映画「稲村ジェーン」の時代設定と同年である。
作詞・作曲は日本を代表する歌謡曲の作曲家、浜口庫之助。
「愛しちゃったのよ 愛しちゃったのよ
あなただけを 死ぬ程に
愛しちゃったのよ 愛しちゃったのよ
ねてもさめても ただあなただけ
生きているのが
つらくなるような長い夜
こんな気持ちは 誰もわかっちゃくれない
愛しちゃったのよ 愛しちゃったのよ
あなただけを 生命(いのち)をかけて」
「私」が「あなた」を想う気持ちは「生命をかけ」る程深刻である。
「生きているのが つらくなるような長い夜」を過ごし、「私一人じゃ とても生きちゃゆけない」という。
そのような「愛」の重さを「愛しちゃったのよ」という軽やかな言葉で中和し、この曲は国民的人気を博した。
「愛してる 愛してる あなただけを 死ぬ程に」などと歌ったのでは、とても重すぎて聴けたものではない。
「LOVE POTION No.9」はウクレレをフィーチャーしたアレンジだったが、この「愛して~」もハイワアンなアレンジとなっている。
和田弘とマヒナスターズはムード歌謡、ハワイアンのバンドであり、マヒナとはハワイ語で「月」を意味する。
この見事なアレンジは小林武史と桑田佳祐によるものだが、そこに多大な貢献をしているのが、ゲストに迎えた和田弘のスティールギターである。「真夏の風」が吹き抜けるような和田のギターが「私」の「切ない」気持ちを代弁している。
新旧の「スターズ」がこうも違和感なくハマるのは彼らが音楽を知っているからだろう。
原由子のボーカルは”想い”との距離感が絶妙である。
深刻な愛にもかかわらず深刻過ぎず、それでいて十分に切ない、そんな感情を不足なく表現している。
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尚、この曲は1990年9月21日にシングルとしてリリースされている。(サントラ発売は同年9月1日)
名義は原由子&稲村オーケストラ。
カップリングは「LOVE POTION No.9」。
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