映画の公開に先駆けてサントラ「稲村ジェーン」はリリースされた。(1990年9月1日発売、映画の封切りは同年9月8日)

全11曲収録。

「稲村ジェーン」を映画館に見に来たカップルの会話が曲間に挿入されている。

 

冒頭の会話で女が男にたずねる。

 

「稲村ジェーンって人の名前?」

 

今でこそ「稲村」は神奈川県鎌倉市の稲村ケ崎、「ジェーン」は1950年に日本を直撃した台風の名前だと分かるが、当時、映画のタイトルのみが明らかになったときは、私も同様の疑問を抱いた。

稲村ケ崎から遠く離れた地方都市に住む無知なガキには、「稲村ジェーン」はハーフの女の子の名前にしか思えなかった。

 

ある日 やって来た

海からの波

私のところに 運んで来た

サンゴの指輪を

 

こんな風に 始まった

この終わりのない ストーリー

現実の生活を

変えてしまった ある波のストーリー

 

上記はスペイン語の歌詞の和訳である。

作詞は「愛は花のように」も手掛けたLuis Sartor氏であるが、その内容は映画のストーリーと明らかにリンクしている。

この曲、映画と同タイトルであるが主題歌は「真夏の果実」である。






 

サントラにはラテンナンバーが4曲(「稲村ジェーン」、「マンボ」、「マリエル」、「愛は花のように」)収録されている。

これは50年代から60年代前半にかけて、日本でラテン音楽が流行した時代考証の結果である。

映画でも登場人物の一人、マサシが時代遅れのラテンバンドを組んでいる。(映画の時代設定は1965年)

 

スペイン語のラテンナンバーでありながら、桑田サウンドとして抵抗なく聴ける。

思えばサザンのデビュー曲はサンバと歌謡曲の融合だった。

中南米音楽も氏の豊富な音楽的ルーツのひとつなのかも知れない。

 

情熱的でスリリングな、予感に満ちたナンバー。

これから何が起こるのか、ビッグウェーブ「ジェーン」は本当に来るのか、リスナーに期待を抱かせる、アルバムの冒頭にふさわしいナンバーだ。

 

サポートメンバー小倉博和のギターが桑田と主役を争う。

彼のテクニカルで表情豊かなプレイがなければ、この曲の成功はあり得なかった。