4.「幸福の黄色いハンカチ」との比較
 さて、今回から『レインマン』の比較分析を始めたいと思います。まずは大きなレベルからということで他の映画との比較。対象として取り上げたのが『幸福の黄色いハンカチ』(山田洋次監督、1977年公開)です。

 

 なぜこれなのか。それらの映画は共に車で旅をするというロードムービーであること。ロードムービーとはウィキペディアによると「いずこかへの旅の途中で起こるさまざまな出来事が映画の物語になっている」ものです。それとたまたま私が知っていて好きな映画だということ。また、これから述べますが意外に似ている点もあります。

 

 では、似ている点、異なる点をそれぞれ挙げていきます。以下『レインマン』を(レ)、『幸福の黄色いハンカチ』を(黄)とします。


(1)似ている点
①よそ者と恋人達との出会い
 (レ)では自閉症者の施設に入っていたレイモンド(ダスティン・ホフマン)が弟のチャーリー(トム・クルーズ)に出会う。チャーリーにはイタリア人のスザンナ(ヴァレリア・ゴリノ)という恋人がいる。

 

 (黄)では刑務所に入っていた島勇作(高倉健)が花田欽也(武田鉄也)と小川朱美(桃井かおり)に出会う。欽也と朱美も出会ったばかりだったが、ストーリーのラストでは恋人同士になる。

 

 レイモンドは自閉症者の施設、島は刑務所という普通とは違う世界(非日常の世界)からやってきて(つまり、よそ者)、日常世界の若い恋人達と出会う。よそ者と日常世界の若い恋人達が出会う意味は?(宿題1)
 

②恋人達のラブシーンを邪魔するよそ者
 (レ)ではチャーリーは遺産目当てで誘拐するかのようにレイモンドをオハイオ州シンシナチの施設から連れ出し、スザンナとチャーリーの住むカリフォルニア州ロサンゼルスを目指そうする。(読者のみなさん、オハイオ州がどこにあるか、ロサンゼルスとどのくらい離れているか地図で確認してほしい!)その夜はシンシナチのホテルに3人は泊まるのだが、レイモンドは隣りの部屋から聞こえてくるラブシーンの気配に気づき、恋人達の寝室に入りこんでしまう。そこでチャーリーに「出て行け!」と怒鳴られる。

 

 (黄)でも3人が知り合い最初に旅館に泊まった夜、欽也が朱美に迫ろうとし、嫌がって泣きそうになっている朱美に気づいた勇作が「おまえらいいかげんにしろ」と部屋に入りこんでくるが、欽也も「なんだよ、お前、出て行け!」となる。よそ者が恋人達のラブシーンの邪魔をするという意味は?(宿題2)
 

③旅の途中で子どものいる農家に立ち寄る
 (レ)ではレイモンドが、車での旅の途中でどうしても見たいテレビ番組のために農家に立ち寄り、子どもたちが見ようとしていた番組があるのに無理を言って見せてもらう。

 

 (黄)3人は農家に一晩泊めてもらう。夜、布団の敷かれた部屋でパジャマ姿の子どもたちと朱美が遊ぶシーンが印象的。旅の途中で子どものいる農家に立ち寄る意味は?(宿題3)
 

(2)異なる点
①回想シーンのない(レ)とそれを多用する(黄)
 (黄)では3人の回想シーンが多くあり、それぞれの過去が映画の観客に紹介され、勇作の過去が欽也と朱美にも語られる。また勇作の悪夢のシーンもあり、それぞれの心の内面も観客に表現される。

 

 (レ)では回想シーンは見られない。だがレイモンドとチャーリーの過去や心の内面は回想シーンを使わない演出で表現されている。それにはどんな演出があるのか?(宿題4)
 

②(黄)の感動的なラストシーンの後では、カップルになった欽也と朱美のラブシーンがあるが、(レ)のラストシーンではチャーリーとスザンナのラブシーンはない
 欽也と朱美はもともと知らない同士であるが、このストーリーを通してお互い理解しあい恋人同士となる。

 

 チャーリーとスザンナはもともと恋人同士だが、ストーリーの始めでは関係がギクシャクしている。それぞれの恋人達に、それらのストーリーは何をもたらしたのか?(宿題5)
 

③予想通り歓喜に満ちた感動的なラストシーンの(黄)とちょっとさびしいけど深みのある感動的なラストシーンの(レ)
 (レ)では深みのある感動をもたらすためにそれまでにさまざまな仕掛けがしてある。その仕掛けにはどんなものがあるのか?(宿題6)
 

 以上、似ている点と異なる点をそれぞれ3つ挙げました。ここから思考を深めていくと、まだまだ出てきそうですが、とりあえずそのくらいにしておきます。それから比較した点について宿題として1から6までの問いを立てました。

 

 次回はこれらの宿題について、それぞれの映画のシナリオ、小説などの資料、カットやシーンなど具体的にあげて考えたいと思います。(つづく)

【これは私(竹藪みかん)が2013年12月ごろに書いたものです。】