人類は9割方狂っていると言われて久しいが、自分は狂っていないと思った時点で狂っているのが正しいらしい。
”おれは狂っているぜ”そう言って笑った友人は先に逝ってしまった。
その逝き先が何処なのか、知らない。ふわっとなって、雲になり、雨になり、
ご家庭の水道になり、誰かの栄養になり、またふわっとなったのかも知れない。
あの世ってところがあれば、そこに逝ったのかも知れないし、それは誰にもわからない。
ぼくは生まれて60数年、狂っていないと思う方を二人しか見ていない。
その方は実に悲しい瞳をしておられた。狂った人類の行く末が見えるのだろう。
6月公演「恋する悪魔」の稽古が始まった。演出しながら時々、ふわっとなった自分を想像してしまう。みんな、綺麗な瞳をしている。だから、泣かせたりしない。笑って笑って笑い転げて稽古をしよう。劇中、剣戟団員は若いのに詩吟を唸ったり剣舞を踊ったりする。そして大天使は、スパイもどきの服装をしたり、アイドルグループそのもので歌って踊ったりする。一見はちゃめちゃなコメディのようだが、彼の文豪ゲーテのファゥストの一節をメフィストの側に立って解説したりする。
亡き友人が喜んでくれそうな構造学的にもしっかりした作品が「恋する悪魔」