求婚話三:阿倍右大臣と火鼠の皮衣 1 | 竹取物語の謎を「うら」読みで解く

竹取物語の謎を「うら」読みで解く

かぐや姫は、なぜ竹から生まれて月に帰るのか?
かぐや姫、竹取翁…、名前は何を表すのか?
蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣…、宝物に隠された意味とは?

求婚話三は、火鼠の皮衣を頼まれた阿倍右大臣です。
要約し、2回に分けてご紹介します。

右大臣阿倍みむらじは、宝豊かで、一門がひろがっている人です。
その年に来た唐船の、王ケイという人のもとに文を書いて「火鼠の皮という物、買ってよこしてくれ」といいました。従者のなかでしっかりした者を選んで、小野房守という人を遣わします。

唐にいる王ケイに金を取らせました。王ケイは返事を書きます。
「火鼠の皮衣は、噂には聞くがまだ見たことがありません。とても難しい交易ですが、たずね求めてみます。ない物なら、金をお返ししましょう」

その唐船が着たと聞き、小野ふさもりを早で迎えさせると、筑紫からたった七日で上ってきました。
王ケイの文を見ますと、「火鼠の皮衣、かろうじて、人を出してお求めいたしました。
昔、尊い天竺の聖がこの国に持ってこられたという物が西の山寺にあると聞き及んで、朝廷に申してなんとか買い取りました。値の金が少ないと国司が使いにいうので、王ケイの物を加えて買いました。もう金五十両いただきたい。賜らないならば、皮衣の質を返してください」

大臣は「何を申す。もう少しの金ではないか。嬉しく、よこしてくれたな」といって、唐のほうに向かって伏し拝みます。
箱は種々のうるわしい瑠璃を取り混ぜてつくってあります。皮衣を見れば、金青の色です。
毛の末には金の光、宝と見えます。

火に焼けないより、その清らな(美しい)こと、並びがありません。


「なるほど、かぐや姫が欲しがりなさるわけだ」とおっしゃり、「ああ、ありがたや」と箱に入れ、枝に付け、ご自身の化粧をとても念入りになさいます。「このまま泊まるであろうよ」と思われて、歌を詠みます。
阿倍右大臣
  限りなき 思ひに焼けぬ 皮衣 袂乾きて 今日こそは着め
  (限りない思い、火に焼けない皮衣を得て、涙に濡れていた袂も乾いた。今日こそは着よう)

~次回に続きます~


現地の公権力まで動かす大掛かりな商いのすえ、唐からはるばる、たいそう麗しい皮衣が届き、右大臣は大喜びです。

唐・船、遣わされたのは小野氏。

聖徳太子が送った遣隋使として名高い小野妹子が思い起こされます。
早馬まで登場、聖徳太子の本名は厩戸(うまやど)皇子だったな、と思わず連想してしまいました。遣隋使・遣唐使への関連付けが強い話といえましょう。

そういえば日本書紀によると、聖徳太子の冠位十二階は、冠名を「徳・仁・礼・信・義・智」にしていましたね。儒教の徳目とのことですが、五行説*の影響が感じられます。

このように竹取物語には、何かにつけて日本書紀に繋がりやすい言葉 が選ばれているようです。素朴な昔話で片づけるには、謎が多いと思います。

さて、阿倍右大臣は……。


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☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆  次回
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求婚話三:阿部右大臣 続きます。


参考文献:
 片桐洋一、他(校注・訳)
 『竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語 日本古典文学全集8』小学館、1972年。
 野口元大(校訂)『竹取物語 新潮日本古典集成 第26回』新潮社、1979年。
 阪倉篤義 校訂『竹取物語』岩波文庫1970年。

イラスト:あおい
紫字
*:リンクあり
                   
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