会社は一人では立ち行かない | 農村商社わかばのブログ

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会社は一人では立ち行かない

自分の息子に会社を継がせたい。そう考えている社長さんが、会社の議決権を有する株式の3分の2以上を所有しているならば問題はないでしょう。社長さんの意に沿わない(息子の社長就任に反対する)取締役を、株主総会の特別決議でいつでも解任ができるからです(会社法309条2項)。また、会社を譲る際に息子の持株が過半数を超えるようにしておけば、通常の株主総会は乗り切れます。もちろん、息子が社長を解任される心配もないわけです。

ただし、社長さんに数人の息子がいて、その中から後継者を選ぶという場合、どんなに「会社のために最適な人物を選んだ」と公平さを強調しても、後継者になれなかった息子が納得してくれるとは限りません。その不満が高じ、内紛が起きることもあります。社長さんとしては、彼らの不満を爆発させずに取り除いてやることも重要な仕事です。

ここで紹介する社長さんにも、後継者候補の息子が二人いました。長男は大学を出ると大手企業に勤め、そこで10年近く、みっちり営業と経営を学んだのです。父親の会社に戻ると次々に新規先を開拓するなど、専務として十分に力を発揮しています。ただ、自分にも厳しいかわりに相手にも厳しく、納期を守らない取引先などは問答無用で切り捨てたのです。また、ミスした部下にも一切言い訳を許しませんでした。というより、一方的に自分の意見に従わせ、取引先や社員の言い分や意見など聞こうともしなかったのです。

一方、4歳下の次男は、大学受験に失敗すると、そのまま父親の会社に入社しました。性格は温厚で真面目、今は常務ですが、営業力も企画経営力も凡庸で、仕事では長男に及びません。ただ、取引先や社員の不満や意見にも耳を傾けるので人望がありました。

「会社にとっては、専務の長男が社長になるのが当然」。好き嫌いはあっても、社員も取引先も、そして兄弟2人も、次期社長は長男と考えていました。しかし、社長さんは次男を選んだのです。困惑する次男、食ってかかる長男に、社長さんはこう答えました。

「どんなに優秀でも、社長一人で会社はできん。社員や取引先の働きがあって、初めて会社は成り立つ。お前のように、仕事はできても他人の言葉に耳を傾けない人間は、中小企業の社長としては不適格だ」

社長さんの会社のような同族経営の中小企業において、大事なのは人間関係だと言うのです。数字がすべての大手上場企業なら当然、跡は長男に継がせるが、自分の会社では後継者は他人の意見を良く聞き、人望のある次男の方が相応しいとのことでした。

「お前を社長にすれば、当座売上げも利益も伸びるだろう。だが、ゆとりのないギスギスしたやり方では、いずれ取引先や社員が離れていく。その点、次男なら取引先や社員とも上手くやれるし、長男のお前を疎かには扱わないはずだ。次男を助けてやってくれ」

社長さんは、長男をそう説得したのです。

確かに、これからの会社経営には目先の利益より、様々な意見を組み込める懐の深い人材が必要なのかもしれません。「できる」という触れ込みで再就職してきた大会社の社員が、実際には「まったく使えなかった」という経験のある社長も少なくないのではないでしょうか。いずれにしろ、自分の会社に合った後継者を選ぶことが大切なのだと思います。