~神奈川、横浜、そして港北区を共に創る~ 神奈川県議会議員 武田翔ブログ

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世の中におかしいと思うことがたくさんあります。悩みながらも成長を目指す軌跡を描きます!

 

【第8回】市境の「壁」・区の予算格差・人口減少時代の地方自治

――大都市制度と「水平連携」の現実を考える


大都市制度や特別市制度に関する資料では、自治体同士が対等な立場で協力する「水平連携」の重要性が強調されています。広域的な課題を県を介さず、市同士が主体的に解決していくという考え方は、理念として理解できるものです。しかし、その理想が現場で円滑に機能するかどうかは、制度論とは別の視点から冷静に考える必要があります。

近年、自治体を取り巻く環境は大きく変化しました。平成期には自治体間の視察や職員交流、共同研究などが盛んに行われ、担当者同士の人脈や信頼関係が築かれてきました。しかし、行財政改革による職員数の削減や業務の高度化、さらに人口減少・少子高齢化に伴う行政需要の増大によって、多くの自治体では慢性的な人手不足が続いています。加えて、費用対効果が厳しく求められるようになり、自治体間交流そのものも以前ほど容易ではなくなっています。

その結果、職員同士が顔を合わせる機会は減少し、「顔の見える関係」に支えられた信頼の蓄積も難しくなりました。自治体間連携は、制度を整えれば自動的に機能するものではありません。担当者同士の継続的な対話や相互理解、そして組織としての信頼関係があって初めて実効性を持つものです。

こうした現場の実情を考えると、「水平連携によって広域課題は容易に解決できる」と期待するのは、やや楽観的ではないでしょうか。まず必要なのは、連携を支える人的基盤や継続的な協議体制を築き、平時から自治体同士が協力できる関係を積み重ねていくことです。

そして、自治体同士の「外側」の連携を考えるのであれば、一つの大都市の「内側」で、地域ごとの違いや住民に身近な課題にどのように向き合っているのかも併せて考える必要があります。横浜市で言えば、その代表例が「区ごとの予算配分」と「市境をまたぐ行政課題」です。

横浜市では、各区が地域の実情に応じた事業を展開するため、「個性ある区づくり推進費」が配分されています。しかし、その基礎配分は各区にほぼ均等となっており、人口規模や地域課題の違いが十分に反映されているとは言い切れません。

例えば、人口約36万人の港北区と約10万人の西区では、住民一人当たりで換算した財源には差が生じます。一律配分には、小規模区でも一定水準の行政サービスを維持するという意義があります。一方で、人口構成、高齢化率、子育て需要、防災上の課題などは区によって大きく異なります。

「平等」と「公平」は必ずしも同じではありません。人口減少が進み、限られた財源をより効果的に活用することが求められる時代だからこそ、地域の実情をより反映した柔軟な財政運営について検討する必要があるのではないでしょうか。

また、大都市制度では県から市への権限移譲が議論されますが、人口約370万人を抱える横浜市にさらに権限が集中した場合、市民一人ひとりの声が行政へ届きやすくなるのかという視点も欠かせません。

行政の効率化と住民自治の充実は、必ずしも同じ方向を向くとは限りません。県から市へ権限を移すことだけでなく、市から区へどこまで権限や裁量を移し、市民に身近な行政をどのように充実させていくのか。区役所の役割や地域自治のあり方についても、同時に議論する必要があります。

もう一つの課題が、市境を越えた行政サービスです。港北区や都筑区では、道路や交通網が川崎市と密接につながっています。住民にとっては生活圏が一体であるにもかかわらず、市境を越えた途端に道路整備や交通環境が変わり、不便を感じる場面も少なくありません。行政区域は分かれていても、住民の暮らしは連続しています。

災害医療も同様です。大規模災害時には、最も近い災害拠点病院が市外にあるケースもあります。神奈川県内では災害時の医療連携や広域応援の仕組みが整備されていますが、実際の運用には平時からの調整や訓練、自治体・医療機関相互の信頼関係が不可欠です。制度が存在することと、それが非常時に実際に機能することは同じではありません。ここでも、継続的な実務レベルの連携が重要になります。

さらに交通インフラを見ても、横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸構想やJR南武線沿線の高架対策など、市境を越えた課題は数多く存在します。こうした事業は双方の住民に利益をもたらす一方で、財政負担や事業の優先順位などをめぐる利害調整も伴います。「水平連携」という理念を掲げるだけで、直ちに解決できる問題ではありません。

横浜市と川崎市の関係には歴史的な背景もあります。1939年には旧日吉村が両市へ分割編入され、現在の市境が形成されました。また、臨海部の開発や港湾整備などをめぐり、両市が競い合ってきた歴史もあります。

もちろん、現在では広域防災や交通など、さまざまな分野で協力が進んでいます。しかし、長年にわたりそれぞれの自治体が築いてきた都市計画や行政運営、財政上の優先順位を調整していくには、相応の時間と努力が必要です。制度上「連携できる」ことと、現実に「連携が機能する」ことの間には、少なからず距離があります。

私は、自治体間の水平連携そのものを否定するものではありません。むしろ、人口減少社会において、一つの自治体だけであらゆる行政課題に対応することが難しくなる以上、自治体同士の連携はこれまで以上に重要になるでしょう。

だからこそ、その実現には制度改正だけではなく、人材、信頼関係、財源、そして継続的な協議の積み重ねが不可欠です。現在でも神奈川県や既存の広域協議の枠組みを通じた連携は進められています。新たな制度を議論するのであれば、まず現行制度の中で何が課題となっているのか、現在の仕組みを活用してどこまで改善できるのかを丁寧に検証することが重要ではないでしょうか。

制度はあくまでも手段であり、目的は住民サービスの向上です。

人口減少社会における地方自治に求められるのは、制度の名称や行政の器を変えること自体ではありません。市民に最も身近な行政をどのように充実させ、地域ごとの違いにどう向き合い、自治体同士が現実的に協力できる仕組みをどう築いていくのか。その検証を積み重ねた上で初めて、大都市制度の是非について建設的な議論ができるのではないでしょうか。