故田中角栄氏、首相就任時には「今太閤」「庶民宰相」ともてはやされた。ところが自身の金脈問題が発覚するや、いっぺんに手のひら返し、辞任に追い込まれた。成し遂げた偉業よりも、カネで辞めた総理としてその後語り継がれることになってしまった。ところが近年、いわゆる田中角栄本が多数出版され、まるで彼を待望しているような空気もある。

 

田中角栄ほど、日本のあるべき姿グランドデザインを、具体的に国民に示した首相はいない。彼が唱えた「日本列島改造論」、おそらく辞任がなければかなりの部分実現していたんじゃないだろうか。そう思わせるだけの実行力も持ち合わせていた。「決断と実行」というキャッチフレーズに当時の国民は痺れた。おそらく時代が違うと言うかもしれない、当時まだ日本の社会経済は成長期で、今は成熟期を超えて人口減などもあり停滞期にある。当然その差は大きい。相次ぐ震災、自然災害そしてコロナ禍は、国土や国民の生活を脅かす大問題。そんな危機的な状況だからこそ、強力なリーダーシップが求められる。日中国交回復を成し遂げ、積極的に資源外交に取り組んで石油ショックを最小限にとどめ、当時ソ連のブレジネフ共産党書記長に北方領土問題を認めさせた。これをわずか2年余りの首相在任中にやり遂げている、決して高度経済成長に頼った政治をしてきていないことがわかる。

 

この本では、そんな田中角栄が「今の時代に首相だったら、こんなことを言い、こんな政策を掲げ、実行するのだろう」ということが書き連ねられている。内政、外交、危機管理などなど、やや大げさ過ぎやしないかと思うところもあるが、概ね頷きながらページを繰った。ただ我々のような一選挙民が読んだところで、これはファンタジーでしかない。現職の国会議員たちにこそ読んで、感じてもらいたいものだ。