ちょうどいい暇つぶしにと、これまでに公開された007映画全24作品を観た。

 

ジェームズ・ボンドを演じた6人の俳優たちのことや、ボンドガールのことをブログに書いてきた。そもそも勧善懲悪ストーリーが痛快な映画だけに、悪役たちがその面白さを際立たせると言っても過言ではない。ここでは、悪役や敵役を振り返ってみた。

 

まずは第1作目のドクター・ノオ、謎の中国人という設定で、国際的犯罪組織スペクターの一員であり、プロジェクトの実行役で、直接殺人などに手を下すことはない。有能な右腕的な存在がいなかったことが致命的だった。

 

「ロシアより愛をこめて」で、ボンドの命を狙うのが、ロバート・ショー演じる殺し屋がグラント。オリエント急行車内での格闘シーンは、シリーズ他作品の中でも度々オマージュされており、映画史の中でも名シーンの一つである。

 

その後、ボンドの宿敵としてしばしば登場するのが、テリー・サバラスなどが演じたブロフェルド。思えば彼はなかな死なない悪役だった。確かにボンドがきっちりとカタをつけていない。おそらく彼の最期は本編の中ではなく、「ユアアイズオンリー」の導入部で、首にコルセットをした彼と思しき人物が登場しているが、それをブロフェルドだとは確定していない。

 

悪役の首領だけではなく、その手下で特殊能力を持ち合わせた殺し屋が登場し始めたのがロジャー・ムーアの時代。なんと言っても不死身の大男ジョーズ、その存在は完全に漫画的。鉄の鎖を噛みちぎったり、宇宙空間に放り出されても死ななかったり。妙に心優しい部分もあり、最後はボンドに協力したりもする。

 

スペクターという存在が古臭くなったからか、敵役はテロリストだったり、武器商人だったり、大富豪だったりと組織色は薄くなっている。単純な「善vs悪」ではなく、そこには裏切りや怨念などが色濃く描かれるようになっている。

 

まだまだ多くの悪役がストーリー展開を面白くしているが、彼らには大きな共通点がある。それは、その誰もがジェームズ・ボンドを容易に殺すことができたのに、殺していないということだ。しみじみ思う、誰でも簡単に一発で仕留められたのに。

 

ところがどういうわけか、悪役たちは簡単にボンドを殺そうとしない。もちろんあれほどの悪党になったことはないので、その心理は理解できない。どうして彼らは、「苦しめて、苦しめて、その挙句に殺したい」と思うのだろうか。たった一度引き金を引けば済むことなのに、「殺れ」と言って手下の任せてしまう。すぐに消しておけば、邪魔されることもないのに。あるいはゴールドフィンガーのように、ボンドが苦し紛れに吐いた嘘を信じて、殺すのを躊躇してしまったり。

 

こんな私の思いは、007のパロディ「オースティン・パワーズ」の中で、悪役ドクター・イーブルとその息子スコットとの間の会話にも表れている。「どうしていつも、パワーズが邪魔を」と嘆く父に息子が一言、「さっさと殺らねぇからだよ」と。

 

殺しを命じられて失敗すれば、自分が粛清されてしまうのに、どうして彼らは不確実な方法でボンドを殺そうとするのだろう。犯罪者心理というものを考えさせられる(笑)。