末永国紀著「近江商人 現代を生き抜くビジネスの指針」を読みました。
天秤棒をかついで広域に活躍していた近江商人ですが、その基本となる考え方は今日のビジネス環境においても、何らあせることなく、大切な教えであり、大変勉強になりました。
1.取引一般の極意
一般的な売買駆け引きの心得は、自然天性にしたがって自他ともに成り立つような取引を心がけることである。売買に関する基本的な見方は、問屋業らしく目先のことにこだわらないで取引先のことも配慮して、長期的平均の趨勢を見ることが大切であるという意味である。
派手な短期的取引を激しく繰り返していかにも働きがあるようにみえても、そのような取引に
よっては、ついに安心を得ることはできない。先の見通しも持たずにただ眼前の利に気をとられて右往左往し、見切り時を誤るようでは、少なくとも「商人の器にあらず」というのである。
さらに、自然のなりゆきに従うという駆け引きには、タイミングが重要なことを例示している。
買い方については、競争相手の少ないときに買い入れれば、売るほうは悦ぶ。
売り方については先方の望むときに売り惜しみせず売り払えば、顧客も悦ぶのである。
売買ともに相手の立場を尊重することが、駆け引きの極意である。
2.仕入の心得
仕入は、競争の少ないときを選び、値が下がったところを見計らって、品質を良く吟味して、顧客の好みに沿った商品を選んで仕入れることである。くれぐれも諸人に人気があるからといって、当面無用の商品を高値で買い置くことをしてはならない。
いうまでもなく、商売では仕入程重要なものはない。その成功と失敗は、ほとんど仕入にかかっているといってもよい。良質の商品を安く仕入れるということ、この矛盾した難問を巧みに解くこそ商人の腕の見せ所である。
3.販売の心得
販売についての心得は、仕入のときとは逆で、顧客の望むときに売り惜しみせずに、そのときの相場で持って損得に迷わず売り渡すことである。先々の値上がりを思惑して売り惜しんではならない。これだけの人気ある商品を、こんな安い値段で売るのは「ちょっと惜しい」と、売り惜しみ、悔やみたくなるような取引をせよ、これこそ一番の極意である。目先の利にくらんで、需要のあるときに強気に出て売り惜しむようなことは、天理に反した家風にも背く不実のり方である。そのような我利だけを見越した販売は、たとえ当座は多少の利益が出ても、相手の立場を考えない取引だから長続きするものではなく、古くから家法として禁じられている。厳に慎むべきである。
たとえ都合よく高く売り抜けて、一時的に「あゝ儲けた」と思うような取引は、顧客の損失や感情を無視した誠意のない取引であり、長続きするものではない。売ったほうが、安売りしすぎたかなと悔やむような取引であれば、買い方の商人にも利益の出ることは間違いないこのような販売の仕方をしておけば、双方ともに満足するから商売は長続きする。このように「売りて悔やむ事」こと商人の極意である。
引用を終わります。
商売の心得をここまで強く、シンプルに書かれているメッセージは初めて見ました。
そして、今こそこの精神でビジネスを行うべきであると強く再認識しました。
尚、近江商人の精神というと「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)が知られていますが、その原典も本書にて紹介されていました。以下引用します。
これまで、近江国神崎群石馬寺の麻布商中村治兵衛が宝暦4年(1754年)に制定した「家訓」は、近江商人の家訓類の精髄であるとされてきた。なかでも、「一 他国ヘ行商スルモ総テ我事ノミト思ハズ其国一切ノ人ヲ大切ニシテ私利ヲ貪ルコト勿レ、人物ノコトハ常ニ忘レザル様致スベシ」という一節は、現代では近江商人の活動の普遍性を簡潔に語るものであり、商取引は取引当事者双方のみならず、取引自体が社会をも利することを求めた「三方よし」の精神を示しているという解釈が施され、広く知られるようになってきた。
引用を終わります。
今回学んだ近江商人の精神を、私自身の思考と行動に繋げていきたいと思います。
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