ドストエフスキーとオレ | 吉岡毅志オフィシャルブログ Powered by Ameba

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「ドストエフスキーとオレ」  

このBlogには堅苦しく、似ても似つかぬタイトルだ。しかもドストエフスキーとほぼ対等な位置で自分の事をオレと呼称するオレという存在がなんとも傲慢であり甚だしい。オレもカラマーゾフなのだろうか。

気がつくとドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟(上)(中)(下)」もいよいよ下巻に突入。

恐ろしい集中力だ。全十二編のうち、第三篇の途中だったのが2月7日。そこから一気に四日間で第九編まで読み終えた。

さて、なぜオレがこの「カラマーゾフの兄弟」を読み始めたのか。

この本を読み出す経緯に至っては、不良と呼ばれる学生が道端で喧嘩を始めるのにさほど変わりはなかった。

家路に向かう途中、雑誌でも立ち読みしようかと本屋に立ち寄った時の事だ。

何か面白い本はないだろうかと雑誌コーナーに向かう時にソイツが目に飛び込んで来た。その瞬間に鈍器で頭を殴られた様な、重く鈍い衝撃が頭を駆け巡ったのだ。

ちなみにオレは鈍器で頭を殴られた事はない。少しだけ、ほんの少しだけ大袈裟に書いてみたくなっただけだ。

そう、その衝撃とは、雑誌コーナーの手前にある文庫コーナーで、とある本のオビに書いてある言葉だった。

「東大教授が新入生に薦める本No.1」

そうハッキリと書いてあったのだ。

・・・ん?

・・・

・・・くっ、コイツめ!!

文字の分際で、完全にオレを無視してやがる!!

オレの目にはこう見えた。

「あなたには絶対読めない本No.1」

もしくは

「あなたには全く関係ない本No.1」

ぬぅぅぅ~!!貴様ぁ~!!

本の胸ぐらを掴み、ガンを飛ばすオレ。しかしソイツは一向に動じない。

こいつの自信はどこから来るんだ?ハッタリとは思えない。そう思った時だった。

はっ!!

な・・・仲間がいやがったのか!!

ソイツだけでもかなりの体格で、圧倒されそうになっていたのに、ソイツとほぼ同等の仲間がいる事に一瞬怯んだ。

そう、中・下巻が奥からオレを睨みつけているではないか。

じょ・・上等じゃなぇか!お前らまとめて相手になってやるよ!!

もう後には引き下がれない。売られた喧嘩は買ってやろうじゃねぇか!!

そしてオレはそいつらをまとめて購入したのだった。

そんな経緯で家に持ち帰ってみたものの、オレは中々本を開く事が出来ずにいた。

ダメだ。このままでは負けちまう。

今までだってそうだ。途中で投げ出したものが山ほどあるではないか。少しは本を読む様になったオレだが、この分厚さは今まで経験した事がない。途中で投げ出すことを恐れ、始めることさえ出来なかったが、これは新たなる自分への挑戦だと言い聞かせた。

新しい自分の扉を開くため、思い切って本を開いてみた。

重い。一ページ、一ページが、鉄の扉を開くかの如く、重くズシリとこの手に伝わってくる。

ちなみにオレは鉄の扉など開けた事はない。

そして、「作者の言葉」から始まる上巻を見てまた頭に血が上る。

この作者の言葉には「最初の二ページで本を投げ出してもいいよ。」「そして投げ出す正等な口実を与えよう。」などと書いてある。

どこまでも強気なドストエフスキーに興味を持ち始めるのに時間はかからなかった。

そして、上巻は投げ出す正等な口実に相応しく、何度読み返しても中々先に進めなかった。

これが、これがやはり東大レベルなのか?

悔しかった。理解出来ない事に対して、素直に悔しかった。

しかし、進んでは戻り、また進んでは戻りを繰り返しているうちに、物語にいつの間にか吸い込まれている事に気がついた。

中巻のオビに金原ひとみさんの言葉がこう書いてある。

「上巻半分を読むのに約三ヶ月。何なんだこのつまらなさ!と彼に怒りをぶちまけもしたものの、もう少し読めば面白くなる、という言葉に疑いを持ちつつも読み続ける事、更に一ヶ月。上巻の終わり辺りから本当に面白くなってきた事に戸惑っている内に、物語は加速していった。(中略)息もつけない展開に思考も止まらず貧るように、中巻と下巻を私はほぼ三日ほどで読み終えたのだ」

「蛇にピアス」を読んでいたオレは、金原さんの言葉に救われた。

「蛇にピアス」では刺青やピアス等の刺激的な描写がグロテスクでもあり、痛みでしか生を感じられない若者の、リアルさを妙に生み出していたのを思い出した。そんな金原さんの言葉は、見事にオレの思っていた事を明確に記してくれた。

さて、いよいよ下巻を開くオレだが、ここからは未開の地だ。前述した様に、これだけ長い本を読んだ事は今までない。この本を読み終える事で、何か一つ成長する気がする。それと同時に上巻中巻でもう一度読まなければと思う箇所がいくつかある。何度も読みたくなる本とはこういう事なのだろうか?文字の分際などと言ったものの、本を開くとそこに文字から広がる世界が待っている。

いつの間にか、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」に描かれている文字を欲している自分がいる事に気が付いた。

ドストエフスキーさん、あんたには負けたよ。

あぁ、見事に完敗だ。あなたの書いた文字に見事にやられちまった。

早く続きが読みたい。オレにあんたの文字を、文字をくれぇ~!!

さてと、またページめくって、あの世界に戻ろうかな。