高校一年生の時、アメフト部に入っていた。
以前も話したと思うけど、高校では、部活を選ぶ基準は何よりもマネージャーだった。
要するに可愛いマネージャーがいる部を選んだ結果、厳ついアメフト部に入部してしまったのだ。
アメフト部の練習はハードだった為、周囲の予想通り、一年経たないうちに退部。
だってさぁ、アメフト部にいた先輩曰く「絶対鎖骨折るよ、一回は」とか平気で言うもんだからさ。
そしてサッカー部にいたマネージャーに恋をして、見事移籍に成功したのだが、どれも叶わぬ恋だった。
何故、この様な経緯になったのか。
それは、入学して少し経った頃、先輩マネージャー達が新入生を勧誘に来た時だった。
一年先輩の女子マネージャー達がやたらテンション高く、「誰でもいいからとりあえず勧誘!」みたいな勢いで、一年生の僕の所にも話しかけて来たのだ。その中でも、元気で可愛い二人組が僕の所にやって来た。
この二人組、漫画「ハイスクール!奇面組」で言う所のウルチエとカワユイの様な存在だった。
もちろん僕はカワユイ派だった。
ウルチエ 「ねぇ、君、名前なんて言うの?」
たけし 「よしおかたけしです。」
ウルチエ 「へぇ~、ねぇ、たけし君さぁ、アメフトやらない?アメフト興味ある?」
たけし 「いえ、特に・・・」
ウルチエ 「良かったら、入らない?アメフト部?」
たけし 「え?」
ウルチエ 「入る部活無いんだったら、アメフト部に是非!どう?」
たけし 「どうって・・・」
カワユイ 「・・・アメフト部、面白いよ。たけし君」
少し照れながら、カワユイ先輩は僕に言った。ウルチエが言うどんな言葉よりも、カワユイ先輩の言った、この一言に僕の心はときめいた。スラムダンクの桜木とまるで同じ感覚だ。
そして同じ「たけし君」でも、言う人が違えば、こうも変わって聞こえるのかと、その時感じた。
今でも、カワユイ先輩が言う「たけし君」と呼ぶ声は覚えている。
それほどまでに、素晴らしい「たけし君」の発音だったのだ。
その時の僕には、微妙にエコーがかかって聞こえていた。
そんなカワユイ先輩に、10年ぶりに下北沢で会った。
小田急線の下北沢駅を下車し、南口に降りようとしていた時だった。
階段を上がってくる女性にふと目が行った。
あれ、見た事あるぞ?でも、しっかりと顔が分からない。
しかし、階段ですれ違う瞬間に、僕は一か八かの賭けに出た。
「トントン。」
僕はその女性の肩を叩いて、声をかけた。
吉岡「あ、あのう、す、すいません。」
どうしよう?違う人だったら?頭の中がパニックになっている。
振り向いた女性は、僕を見つめた。
そして、お互いにしばらく見つめ合い、何とも言えない沈黙がそこにはあった。
「・・・」
やばい、人違いかな・・・でも、似てる。
そうだ!僕はとっさにこう言った。
吉岡「・・・失礼ですけど、あの、もしかして都立千歳高校卒業じゃないですか?」
女性「そ・・そうですけど」
吉岡「あのぅ、先輩ですよね?」
女性「・・・あっ、もしかして!」
吉岡「やっぱり!」
女性「たかし君!」
吉岡「・・・・・・」
女性「?」
吉岡「・・・たけしです。」
女性「あっ!たけし君久しぶり~!」
吉岡「元気そうで、良かったです。」
女性「たけし君も元気?」
吉岡「えぇ、まぁ・・・。」
女性「そっかぁ、良かった。」
吉岡「あ、それじゃ、またどこかで。」
女性「またねぇ~。」
彼女の「たけし君」には、もうエコーはかかっていなかった。
というか、「たかし君」だった。
おしいっ、もう一歩っ、かけ違いっ・・・。
思い出は、思い出として、綺麗にとっておくべきだと言う事を知った、そんな28歳の夜。
PS.先日のコメントにつるちゃん本人からコメントがあった。
つるちゃん、ありがとうっ!!
かけ違いは、多分、つるちゃんも経験しているだろう。