1998年フランスW杯準決勝、フランス対クロアチア。この一戦で主役となったのはDFのリリアン・テュラムだった。この大会で得点王となったダボル・シュケルの一撃で先制点を決められたフランスは、テュラムが積極的な攻撃参加から2得点を奪い、21で勝利して決勝進出を決めたのである。しかし、フランス中が歓喜に沸いたこの瞬間に、ただ一人、敗れ去ったクロアチアの選手たち以上に肩を落としていた選手がいた。ローラン・ブランである。大会を通じて失点をわずか2点に抑えた堅実なフランス守備陣の中心としてチームに大きく貢献していたこのDFは、この試合の後半にセットプレーでの小競り合いで、クロアチアのスラヴェン・ビリッチを小突いたとして退場となり、手の届きかけていた夢の舞台、W杯決勝を出場停止となってしまったのだ。

時は経ち、13年後の2011年。フランスは親善試合で、あの時と同じスタッド・ド・フランスにクロアチアを迎えた。そして、両チームの監督は、そのブランとビリッチであった。2人は当時の出来事を水に流すかのように笑顔で握手を交わした。集まった観衆の中には、98年のあの一戦と今回の試合を重ね合わせて観ていた人も少なくなかっただろう。

しかし、W杯準決勝に相応しく素晴らしい試合となった98年のものと比べ、今回の親善試合はお世辞にもおもしろいといえるものではなかった。前半から、親善試合とは言えないほど程に多くのファウルが相次ぎ、その度にプレーの流れが切れた。フランスの攻撃陣の出来はひどいもので、全くリズムを作れず、シュートもなかなか枠に収まらなかった。そんな中、一人気を吐いたのがDFのアディル・ラミだった。パッとしない攻撃陣を見かねてか、度々ディフェンスラインから飛び出しては攻撃参加。果敢なドリブル突破やアクロバティックなオーバーヘッドを見せたほか、この試合で最も惜しいシュートを放った(つまり試合は00のスコアレスドロー)。その右足から放たれたシュートはポストに嫌われたものの、それはまるでFWに手本を見せているかのようだった。そしてその姿は98年のテュラムを彷彿とさせた。

しかし、このラミの攻撃参加は、守備が安定していて余裕があり、守備陣の間で連携が取れているからこそ出来ることである。その守備陣の中心は、ラミと共にセンターバックのコンビを組み、ここ7試合で1失点と非常に安定している守備陣をまとめているフィリップ・メクセスである。イタリアの強豪ASローマに所属し、屈強なDFが揃うセリエAの中でもトップクラスのDFとして活躍するメクセスは、若くからブランの後継者として期待されてきたが、これまで代表では思うような結果を残せずにいた。ドメネク前監督との確執も噂されてきたが、彼自身は「チャンスを与えられても、それをどう掴めばよいのかわからなかった」と言う。しかし、「監督との信頼関係が自分を変えた」と、ブラン監督となって代表でも本来の力を発揮できるようになったことも口にしている。ブラン監督本人も「メクセスが将来的にフランスの中心となる」と信頼を置いている。

2014年、ブランが立てなかった夢の舞台に、その後継者のメクセスは彼と共に立てるのだろうか。その前にまずは来年のユーロでレ・ブルーがどこまでやれるのか。守備陣の準備はすでに整っている。後は攻撃陣の変化を待つだけだ。