父島で迎えた大晦日。
その昼飯に何食べたっけ。
たぶんカレーだったはず。


独身だった頃は週に3回くらいはカレーを食べていました。あまり料理はせず、気に入った食堂2~3軒を順番に使うのです。
理由は、カレーが続いてしまっても、店が違えば違った味のカレーを食べることができるから。
そんなにまでして、何故カレーが食べたいのか?
これは、私のカレー原体験によるものです。

私は小学2年生から5年生までの4年間、ちびっこラグビースクールに通っていました。地元の陸上自衛隊が主催しているもので、毎週日曜日、家から父の乗る自転車の荷台に座り、送り迎えしてもらっていました(小5まで自転車に乗ることができなかった、という事情があったので)
同じ小学校の友達がたくさんいたので、すぐに馴染んでいた記憶があります。
そのラグビースクールで、夏に合宿をするのです。
広い芝のグラウンド。みんな汗だくでスクラム組むのです。草の匂い。土の匂い。汗の匂い。楽しかった思い出の匂いです。
休憩時間になると大きな鍋に大きな氷の塊と水をガバッと入れ、そこへカルピスの原液をどぼどぼ入れるのです。それを各自おたまですくって自分の紙コップに注いで飲む。普通のカルピスなのに、みんなでおたまの奪い合いをしつつ飲んだあのカルピスがものすごくうまかった。みんなで飲む、というのが良かったのでしょうね。
ある年の夏合宿でのこと。もうすぐ昼休みという時間帯。ミニゲーム形式の練習だったと思います。そのぐらいの時間帯が一番キツい。喉は渇くは腹は減るは、疲れてきて足はもつれるは。さっきのカルピスが飲みたくなるのです。ふと目をやると、午前の休憩時間に飲んだカルピスの鍋の横に同じ大きさの鍋がどすんと置かれていました。カルピスのおかわりかぁ!?と喜びかけて、なんか様子が違うことに気がつきました。
何の鍋かな?と思っていたら、スクールの先生の怒声が響きます。
「こらぁ、よそ見すんなぁ!スタンドオフがボール見てなかったら、試合成り立たないべ!」
スタンドオフ。ラグビーでは「司令塔」といわれるポジションです。私がその時、たまたまスタンドオフをしていました。司令塔がゲームより鍋に気持ちを向けてはいけないのです。
でも気になる。
「先生、あの鍋なに?」
「試合中に鍋の話すな!」
「気になるもん」
「…カレーだ」

グラウンドにいたちびっこラガー全員が歓喜の声を上げたのは、言うまでもありません。
相手チームになっていた友達の一人が
「先生、もうカレーライス食べるべし(食べようよ)」
みんなの声を代弁してくれました。
「あとワンプレーしたらな」
再び歓声が上がるグラウンド。
そして、一気にラストワンプレーに集中するみんな。でも、みんなの頭の中はカレーライス。
私が出したボールがラインの途中で相手に捕まったものの、味方フォワードがうまくモール(プレー途中でつくるぐちゃぐちゃなスクラムみたいなの)をつくってじわじわ前に進み(ドライブするって言ってたっけ)そのままトライ。めでたく午前の練習が終わりました。
「集合!」
みんなが先生のところに集まります。
「ごくろうさん!今日の昼食は外でカレーライスを食べます!」
この日三度目の歓声。

この日はちびっこラガーのお母さん方が調理のお手伝い。炊き上がったご飯を入れた大きなおひついくつも積んだ台車を押して登場すると、早くもプラ皿とスプーンを持ったちびっこラガーの行列ができました。
そういうときの出足が遅い私は列のほぼ最後尾。
行列の半ば過ぎぐらいがカレーにありついたころには、私の後ろに、カレールウがこびりついた皿を持ったおかわり組が並び始めました。
「おかわりは2回までだぞ!」
先生が叫ぶように話します。
「えーっ?!」
と不満の声をあげる私の後ろのおかわり組。
「お前たちばかり食べたら、俺たちの分無くなるべ」
と、先生。
そんなやりとりを聞いているうちに、なんとか私にもカレーがあたりました。
カレーの入った皿を持って、みんなの輪に入ります。私のトロくささを見兼ねた先生の一人が私にカルピスの入った紙コップを持ってきてくれました。
「ありがとうございます」
「お父さんと違うよな」
私の父をよく知るその先生は、父がサッカー選手だったことや負けず嫌いな性格なのを私のトロさと比較しているのです。
「先生、カレーおいしい」皮肉に気が付かないふりをするのが、私のささやかな抵抗です。

おかわり組はコントのようにわしわしと食べています。
私はその当時、今と違って食べるのも遅かった。
私がようやく2回目のおかわりに行ったときには、ほとんどみんな食べ終わって、グラウンドで鬼ごっこをしていました。
それでも、みんなと一緒に食べた満足感はありました。最後のおかわりは、少し冷えたルウでしたが、やっぱりおいしかった。食事の輪にはスクールの先生しか残っておらず、大人と一緒に食べていました。
「家でも食べるの遅いのか?」
「はい」
「お父さんも遅いのか?」
「晩酌してるから」
「それに付き合って食べてるから遅くなるんだな」
「はい」

仲間としゃべりながら食べるのも楽しいですが、大人としゃべりながら食べるのも楽しい。

カレーを食べるときはいつも、仲間や先生との合宿を思い出すのでした。