旅に出た。
 今まで「旅」という言葉を使う事に戸惑っていた自分がいた。現代社会ではどこに行っても24Hやっているお店があったり、流通の発展があり同じ物が売っていたりする。そんな世界では「旅」という呼び方より「旅行」の方が合っている気がしてどこか戸惑っていた。
 高校時代にある人から「旅」と「旅行」の違いについて聞く機会があった。行為的にはそれほどの違いはない。しかし、日本語を使う私たちには若干の差異がそこにはあるだろう。その違いは、そこに目的があるか、ないか。今回それがようやく腑に落ちた。
 私は旅に出た。
 今回、目指すのは北海道だ。パートナーと友達と3人で北海道を目指して東京から北海道まで北上中である。初日は栃木に住む、友達の家を訪ねに行った。テレビなどで栃木には何もないという事をよく見聞きするが、そこには人々が受け継いできた暮らしがあり、それを垣間見る事ができた。
 益子という場所は昔から焼物の文化があり、町の至る所に焼物という文字が書かれた看板を見かける。
 また、その近くには森があり、ちょっとした散歩コースになっていた。奥の方に行くと大きな展望台があり益子の町を見渡す事ができる。



 普段都会で生きる私には少し寂しさを感じる町だったが、昔からの文化が根付いており、どこか暖かみを感じる町でもあった。
 益子を出発して、北上していくと那須を通る。道中、一つの看板が私の目に止まる。
「都会のゴミを田舎で燃やすな。」
 私が普段暮らしている際に出すゴミ。それがどこに行くのかあまり気にした事がなかった。私が出したゴミが他の場所へと運ばれて、他の誰かの大切な土地で燃やされているのかと想うとなんとも言えない気分になった。今までもゴミはあまり出さず、他の物に作り替えたいと思い行動していたが、そのまま続けていこうと思えるきっかけにもなった。
 そんなこんなで進んでいき着いたのが「鹿の湯」である。栃木の友達にお薦めしてもらい訪ねに来た。
 鹿の湯に降り立った瞬間、硫黄の匂いが私たちを襲ってくる。古くからある木造建築の温泉である。



 受付でお金を払い、渡り廊下を過ぎる、のれんを潜ると廊下が伸びており、小窓から異様な光景が目に飛び込む。ほとんどの人が湯船の外にすわっているのである。
 私は脱衣所で服を脱ぎ、扉もないお風呂へ向かった。どうやら「鹿の湯」には特別な入り方があるらしい。まず初めに「かけ湯」を頭からかけてお湯の温度に体を慣らすそうだ。
 お風呂にはシャワーはなく、石鹸、シャンプーは禁止。そこにはただ湯船が6つ並んでいるだけである。一つひとつ入ってみると42°、44°とそれぞれに書かれており、6つのお風呂は41°〜48°のお湯に分かれている。
 常連の人に「せっかく来たなら入らないとなぁ」と声をかけられて、46°、48°のお風呂に入ってみることにした。
 まず、入る前にお湯全体をかき混ぜ温度を少し下げる。これをしないと源泉が50°近くあるため入れたものではない。
 お風呂に足を入れる。足だけでも熱くてたまらない、背中を入れる時には暑さで痛くてしょうがない。肩までつけて湯船から上がる。一度やるだけで体はぽっかぽかである。
 それを四回程行い温泉から上がることにした。
 栃木の魅力に触れる事ができた1日であった。

 私は車で旅に出た。