ミステリのカリスマ
といえば誰を思いつきますか?
というわけでごきげんようお久しぶりです。どうしてこんなに期間が空いてしまったのか、それはあとでお話します。放置していたわけではないんです。ごめんね。
さてお話を戻しましょう。ミステリ界隈のカリスマといえば誰でしょう。国産ミステリの古典では江戸川乱歩、横溝正史、夢野久作をピックアップしたいです。現代でしたら有栖川有栖さん、綾辻行人さん、法月綸太郎さん? もしくは宮部みゆきさん、東野圭吾さん、湊かなえさん? 外国産現代ミステリは詳しくはないのですが、アンソニー・ホロヴィッツは確実にランクインするでしょう。
今回話題に挙げようと思っていますのは、外国産古典ミステリのほうです。
ドイルやポー、ヴァン・ダインあたりは鉄板として、ほかに三人挙げろと言われたら難しくないですか? エラリー、クリスティ、カーは入れたいけれど、チェスタトンやジョルジュ・シノムンも捨てがたい。バークリーも忘れてはいけません。待て待て、ハードボイルドを含めるとチャンドラーもいるよね。これ以上は争いの種ができそうなのでやめておきますが、ほかにも名作がゴロゴロ転がっているのです。
つまり、海外には日本のミステリに大きく影響を与えた巨匠がゴロゴロいるのです。
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それでは、今回ご紹介するのはこちら。ロジック系ミステリの巨匠エラリー・クイーンのデビュー作、「ローマ帽子の謎」です!
こちらは鉄板・創元推理文庫さんバージョンのもの。
こちらは私も知らなかった角川文庫のもの。イラストは竹中さん。ティーンズ小説を読む方でご存じの方は多いのではないでしょうか。私も大好きなイラストレーターさんです。
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じゃあクイーンって何がすごいのか。それは、ロジックの美しさです。
驚愕などんでん返しを売りとするクリスティや人情とユーモアで推せるチェスタトンなどなどとは異なり、クイーンはとにかく理路整然で攻めます。真相に関して、とにかくいちゃもんをつける余地がないのです。
たとえば。
犯人の動機として「怨恨」ってあるじゃないですか。「犯人はガイシャの元恋人に違いない。だってそういう人間って執着気質が多いじゃん」みたいな。つまりプロファイルで推理を展開するタイプのものですね。日本の刑事ドラマに多いと思います。でもクイーンはそんなことしないんです。「これこれこういう理由で犯人は殺意を持っていた」と、すべてに客観的な証拠がそろっているのです。ずるなんてしないんですよね。その点、「イタリア人はこういうことしないんじゃないかな」と書いたクリスティとは一線を画すと思います。
逆に言えばいちいちすべてを説明するので、スピード感というのはまったくありません。非常に展開が遅いです。ゆえに私もこれを読み切るのに二週間以上かかりました。更新が滞っていたのはこの本にかかりきりになっていたからです。
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ではこの本の中身をざっくりと。
舞台はローマの劇場、時は演劇の上演中。そのさなかに惨劇が起きてしまいます。
ガイシャは極悪弁護士のモンティ・フィールド。過去にたくさんの人間を食い物にしてきた非常にワルな人間です。そして容疑者は劇場にいた人間すべて。キーを握るのは、現場にあるはずだったひとつのシルクハット。
果たして犯人は誰で、どうして・どうやって帽子を持ち去ったのか? 帽子にはどんな秘密が隠されていたのか?
それを調査するのが、二人の主人公・クイーン親子です。
まずは父親のリチャード・クイーン。熱血で真面目なおじさんです。そして息子のエラリー・クイーン。父親とは反対に理知的でちょっと不真面目の文学青年。二人はくだんの事件へ、かたや意気揚々と、かたやいやいや、飛び込むのだった――
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もう少し親子を、独断と偏見で掘り下げますね!
父親リチャードは、いわゆる昔気質のゴリゴリの刑事。捜査は靴底をすり減らして行い、地道な調査を積み重ねて真相へ近づくタイプです。実際リチャードは劇場の観客全員にボディチェックを施したり、ガイシャの家を文字通りひっくり返して物証を探したりと、現代の日本で同じことをやったら炎上しそうな力業もいといません。ああローマにもこんな古い刑事ドラマのステレオタイプの権化がいたんだ……となります。
対するエラリーは安楽椅子探偵で、現場に行っても基本突っ立っているだけ。気になることがあれば口を挟みますが、基本力仕事はすべて父親まかせ。休みの日には行きつけの本屋で目当ての本をあさり(しかし大概その予定は潰える)、とにかく文学ジョークが大好きで、言わないと死ぬの? と思ってしまうほど繰り返す変な人です。しかし頭は冴え、柔軟な考えで一足飛びに真相にたどり着いたりします。
このシリーズにおける魅力の一角は、間違いなくこの親子のチームプレーでしょう。まるでツッコミとボケで構成されたコントみたいで、作品が重くなりすぎず読みやすくなっています。ていうか大概エラリーがリチャードを茶化すのがいけない。そしてリチャードが真面目に返すからいけない。
徹底的にロジックを積み立てたゆえに非人情的になったこの作品の中で、この親子の仲良しだけがストーリーの「人間らしさ」だと思うのですが、どうでしょう。
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クリスティかカーか、それともクイーンか。この論争はきっと永久に途絶えることはないのでしょう。
「どれも面白いからいいじゃん」という私のような博愛主義ももちろんいいですが、どうでしょう、お気に入りのミステリ作家一辺倒になってみるのも。それはそれで面白そうですね。
でも一冊二週間以上かかりきりになるとして、クイーンの作品を読破するのにどれだけ時間がかかるのか……想像するだけで怖いです。できればこの寿命が尽きるまでにはやってみたいですけどね。
それでは今回はこのへんで。お読みいただきありがとうございました!
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以下リンクです。
<創元推理文庫版>
ローマ帽子の謎【新訳版】 (創元推理文庫) | エラリー・クイーン, 中村 有希 |本 | 通販 | Amazon
ローマ劇場で起きた毒殺事件に挑む、リチャード警視とエラリーのクイーン父子。〈読者への挑戦〉で名高い国名シリーズ第1弾にして巨匠クイーンのデビュー作、新訳で登場。
<角川文庫版>
ローマ帽子の秘密 (角川文庫) | エラリー・クイーン, 越前 敏弥, 青木 創 |本 | 通販 | Amazon
観客でごったがえすブロードウェイのローマ劇場で非常事態が発生。劇の進行中に、NYきっての悪徳弁護士と噂される人物が、毒殺されたのだ。名探偵エラリー・クイーンの新たな一面が見られる決定的新訳!