米寿シリーズ

 

「ひかりの魔女」の記事に続いて米寿のお人がでてくるお話ですこんにちは。

さて、「ひかりの魔女」のときはムキムキおばあちゃんのことを書いたと思うのですが、一方、ムキムキおじいちゃんって言われて何人か思い当たるの、どうしてなんでしょうね。

芸能人だけでなく町の公園なんかにもたまに出没しますよね、ムキムキおじいちゃん。鉄棒とかで懸垂とかしてませんか?もしくは水泳やらランニングやらしてませんか?「ゲートボール?そんなんワシには生ぬるい!」と言わんばかりにマイウェイで己の体を鍛え上げ続けるおじいちゃん、あっちこっちにいますよね。

かく言うぽんぽこのおじいちゃんも年のわりに元気です。ムキムキではない方で元気です。察してください。

 

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さて、今回ご紹介する米寿本はこちら。ダニエル・フリードマンで「もう年はとれない」です!

 

 

創元推理文庫ということでゴリゴリの本格ミステリを想像される人もいそうですが、この本は表紙から分かる通りハードボイルドです。最高にクールなムキムキジジイを見ていきましょう。

 

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主人公はバック・シャッツ。元刑事のユダヤ人で、かつてナチの捕虜収容所で「親切とはいえなかった」ことをされた経験のあるおじいちゃんです。帯などには「八十七歳」とありますが、途中でお誕生日を迎えてめでたく米寿になります。ちなみにちょっとぼけている。大丈夫か?大丈夫じゃないんです。

そんなバック、ある日かつての戦友の臨終に立ち会うために病院へ。そのとき、かつてバックに「親切とはいえなかった」ことをした張本人のナチ将校が金の延べ棒抱えて生き延びていたぜ、と話を聞きます。くそったれ、どうでもいい、とバックは興味なしですが、聞きつけた孫が登場し、「じいちゃん探してみようぜ」「仕方ないなあ」と(実際にはもっとかっこいいやりとりなのですが割愛しました)重い腰を上げるバック。さて、そういうことで、八十路のジジイと陽キャ孫のハードボイルドな大冒険が始まったのだった。

 

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なによりバックがかっこいいのは、ルールやしがらみにとらわれずラッキーストライク(タバコの銘柄)をスパスパするところと、なにより、痛烈すぎる皮肉をズバズバ言うところです。とにかく言うことがかっこいい。バック語録を作ってウィキなんかにアップしてもいいくらいかっこいいです。例えばこんな感じ。

 

葬式では必ず煙草を吸う。というのは、自分が棺に横たわる日が来たときに、もう一本吸うひまがなかったことを悔やみたくないからだ。

 

しびれるほどかっこよくありませんか、この文章。

自分の老いを自覚して、もう人生も長くないこともわかっていてなおポリシーを貫くバックの姿勢!常識で考えたら禁煙のところで喫煙するなんて老害そのものなんですが、それはハードボイルド世界ですのでお許しください。

加えて「自分が棺に横たわる」なんて老人ジョークもかっこいいじゃないですか。余命いくばくもないとわかっているからこそ、この痛烈な皮肉が効いてくるんですよね。私も老人になったら言ってみたい一言です。

 

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そしてバックとテキーラのコンビネーション。これもまた凸凹コンビで見ていて飽きません。

なにせバックはゴリゴリなハードボイルド(言い換えれば陰キャジジイ)で、テキーラはネットに強い明るい若者(言い換えれば陽キャ)なので、時としてぶつかったりすることもあります。

例えば途中でとある人間の貸金庫を開けることになるのですが、そのための作戦会議にて。どうやって銀行を襲うかに頭を悩ますハードボイルドVS「んなもんネットでどうにかなるよじいちゃん」と楽観的な陽キャ。ちょっとした小競り合いを経て、ちゃんと「最高のアイデア」を思いつくことができる二人。さすがジジイと孫、価値観の相違はあれど、息はぴったりです。

 

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ここからはつたない妄想。

 

そこで疑問なのが、どうしてバックは老人として書かれているのかということです。

普通のハードボイルドならマーロウのように青年~中年くらいの、男盛りな年齢のキャラクターのほうが絶対に動かしやすいはずです。この小説はプロットも十分面白いので、わざわざバックを老人にしてトリッキーさを狙わなくてもよかったのでは、と思うのですが。

そこで思い出したのですが、マーロウシリーズが大体1940~1950年あたりに出版されているということ。ハンフリー・ボガートがマーロウを演じたことがあるので、ちょうどそのくらいの年代ですね。びっくり、今から七十年以上前の話です。

ぽんぽこの所感ですが、正統派ハードボイルドの全盛期って1970年ちょっとすぎくらいに終わっている気がします。そのあとはコーンウェルの「検視官」シリーズのスカーペッタのような、ちょっと変わったハードボイルドが出てきます(これはもっと新しい作品ですが)。

つまりバックのようなハードボイルドって、もうびっくりするくらい昔の存在なんですね。

バックは若いころ、それこそナチから「親切とはいえない」扱いを受けれいたとき、ちょうどハードボイルド全盛期だったと思うのです。そして時が流れてハードボイルドが歴史の産物になってもなお、年老いたバックは「古き良き時代」を代表するハードボイルドとして生き残ったのでしょう。

だからバックは時代錯誤な考えの持ち主だし、大時代めいた皮肉も言う。先端技術にちんぷんかんぷんなのもそのせいです。

バックは、ハードボイルドの生き残りなんです。

 

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ちなみにこの作品、シリーズ化しています。まだ読んでませんが気になります。ていうかバック、体は大丈夫なのか?完結する前に寿命が尽きるのではないか?そしてアルツハイマーは大丈夫なのか?いろいろ気になります。

というわけで今回はこのへんで。お読みいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

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以下リンクです。

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あらすじ

捕虜収容所でユダヤ人のあんたに親切とはいえなかったナチスの将校が生きているかもしれない―臨終の床にある戦友からそう告白された、87歳の元殺人課刑事バック・シャッツ。その将校が金の延べ棒を山ほど持っていたことが知られ、周囲がそれを狙ってどんどん騒がしくなっていき…。武器は357マグナムと痛烈な皮肉。最高に格好いい主人公を生み出した、鮮烈なデビュー作!