スキル:ピックポケット

ができる神ゲーが昔あったんですよ。「スターオーシャンセカンドストーリー」というゲームなんですが。

このスキルのすごいところは、なんとエネミーを除く全キャラに掏摸を働けるんですよ。もちろん味方もスれます。たまに固有セリフがあるキャラがいたりして、「ワシから奪うのは百年早い」みたいな強キャラ感あふれるセリフを言ってくれるモブもいたりします。

他にも偽装紙幣も作れたりして、反社あふれる行動が多彩にできます。もっと健全なスキルだと同人誌を出したり即売会でそれを売れたり、本当にいろんな行動ができたものです。switchでもリマスター版が出ていますので、気になる方はやってみてくださいね。

 

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もちろん現実世界ではみなさんも私も掏摸なんか関係ない生活を送っているわけですが(ですよね?)、そういうダークな世界ってあこがれてしまうのも私たち(ですよね?)。ゲームもいいけど、もっと深く、そして現実よりライトに体験できる反社はないかしら。

というわけで、今回はちょっとだけ反社な本をご紹介します。中村文則さんでその名もずばり「掏摸」です!

 

中村さんはこちらの作品で大江健三郎賞を取っていますし、世界的に権威のある新聞にて「ベスト小説10」にも選ばれています。中村さんもこの作品も世界的にすごいのです。

 

ちなみになんですが、中村文則さんは私の近所の出身なんですよ。本当の余談なんですけどね。

 

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さて、こちらの小説の中身をざっくりと。

主人公はズバリ「掏摸」を生業にしている青年。お金持ちを狙って今日も今日とて財布をスって生活しています。しかも彼は天才なので、スられた人もスられたと気づかないほど。

そんな主人公、昔かかわった反社の男と再会し、どっぷり反社の仕事を依頼されます。強盗から始まり、目的は見えないがヤバイ匂いはプンプンする小さな仕事まで。

ただの掏摸だった男がずるずる闇世界に引きずり込まれ、大きな力の濁流に飲み込まれていく。その果てに何があるのか、それは読んでからのお楽しみということで。

 

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この小説の大本にあるテーマは、裏表紙のあらすじにもちょろっと書かれていますが、「他人の人生を支配するとはどういうことか」です。

人生は自分のもので、自分の自由で動いている。そう誰もが思っていますし、そうであることが理想です。

 

ですが、果たしてそうでしょうか。

 

この小説の中に、ある小話が挿入されています。昔むかしのフランスのある少年の話です。

少年はある貴族のもとに奴隷としてやってきます。その美しい少年を見て、貴族はあることを思いつきます。この少年の人生をすべて私が決めてやったら面白いんじゃないかと。そして、実行に移しました。

そして少年の人生は主人の規定通りに進んでいくことになります。初恋、離別、絶望、忠誠心、結婚、不倫……当時の奴隷にありがちであろう人生でした。そのすべて、細部に至るまで、他人のシナリオ通りだとしても。

そして最後に少年は、主人の妻を寝取った罪で殺されることに。執行の直前、主人は少年にあるものを見せました。それは、少年のいままでの人生の設定をまとめた紙の束でした。

 

そしてこの小話を主人公に語った男は、こう言います。

 

「……その貴族は味わっているだけだ。人生から得られるものを。余すことなく」

 

人生から得られるもの。それは、人を支配するものだ。そう男は言うわけです。

そんな馬鹿な、狂ってる、と思った方、ちょっと待ってください。そして想像してください。目の前の他人が、自分の意のままに動くさまを。それはまるで、自分の書いた小説が目の前に再現されるようでしょう。もしくは、世界すべてが自分の組んだプログラム通りに動くようでしょう。

どうでしょう。妄想したことのある方も多いのではないでしょうか。

もしそんな力があったら、私たちは行使せずにいられるでしょうか。善人のままいられるでしょうか。

 

また、これは逆も考えられますよね。

もし私たちの人生が他人が組んだプログラムだったら。誰かの作ったゲームのキャラクターのように動かされているのならば。他人の気の向くまま、気に入られなかったらバッサリ捨てられてしまう存在だったら。

ちょっと、ぞっとしますよね。

 

のちにこの小話は男の部下の即興話であることが発覚します。

ですが、この小説とは切っても切り離せない核心であることは言わせてください。他人の人生を握っているのは誰なのか。主人公は握る側の人間なのか、握られている側の人間なのか。それも含めて、読んでみてください。

 

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この記事を書いていて思い出すのゲームがもう一つあります。「ドキドキ文芸部」というゲームです。

あまり書くとネタバレになりそうなのですが、このゲームには、「この世界がゲームであることを知っているキャラクター」が登場します。友達はプログラマーが組んだ架空の存在であり、彼女にとってのリアルは、プレイヤーである「あなた」のみ。その孤独について、彼女はゲームの最後に、初めて主人公に訴えるのです。

こちらのゲームはスチームで無料でプレイできますので、気になった方は覗いてみてください。ただもともと海外のゲームなので、日本語パッチをお忘れずに!

 

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最初はもっとライトな感じの記事にしようとしたのですが、結局ちょっと重めな内容になってしまいましたね。

今回リンクに、今回紹介したゲームのリンクも貼っておきます。気になった方はそちらもぜひ!

 

というわけで今回はこのへんで。お読みいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

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以下リンクです。

 

・掏摸

掏摸(スリ) (河出文庫) | 中村 文則 |本 | 通販 | Amazon

(内容)

大江健三郎賞受賞作にして、LAタイムズ文学賞候補作、
アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」2012年ベスト10小説、
アメリカ・Amazonのbest books of the month(March)に選ばれたベストセラーがついに文庫化。

綾野剛氏絶賛! 「血も心も身体も嘘みたいに、ここには確かな生(じじつ)がある」


[内容紹介]
東京を仕事場にする天才スリ師。
ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」
----運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。
そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。

その男、悪を超えた悪----絶対悪VS天才スリ師の戦いが、いま、始まる!!

 

 

・スターオーシャンセカンドストーリー

スターオーシャン セカンドストーリー | SQUARE ENIX (square-enix.com)

 

 

・ドキドキ文芸部

Steam:Doki Doki Literature Club! (steampowered.com)