おいしい料理と古本
ってどうしてこんなに相性がいいんでしょうね。
というわけでごきげんよう。みなさんブックカフェって行ったことありますか?私は近くのスタバがブックカフェ形式を取っているのでよく利用しています。コーヒーを頼むと三冊まで商品を持ち込み可能、しかも時間制限なく長居し放題。スタバはお店の方針で(基本的に)お客を追い払うことはしない(はず)なので、じっくりゆっくり本を読めるのですごく助かっています。
※「お客を追い払わない」という方針はコロナ禍前の情報です。現在は感染拡大防止のために制限時間を設けているところもあるかもしれません。
※いくら追い出されないといっても、都度ドリンクをおかわりするなど常識的な行動をとりましょう。混雑しているときは遠慮するのもマナーです。
というわけで、現代さまざまな形態のブックカフェが展開されています。中には岐阜県立図書館など、図書館で借りた本をそのままカフェで読める、なんてところもありますね。そこもスタバなんですけどね。ほんとスタバさんありがとうございます。
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ブックカフェについて熱く語ったところで。
今回はそんな私が敬愛してやまないブックカフェを取り上げた小説をご紹介します。「古書カフェすみれ屋と本のソムリエ」です。
というわけで今回の舞台は古書カフェです。この本に囲まれたテーブル席、(手前で撮った写真ゆえ色が変でわかりにくいですが)落ち着いた暖色系の色使いも素敵です。さすが平沢下戸さん、いい仕事をしますね。
ちなみにこの「だいわ文庫」といえば実用書や自己啓発書のイメージが強いかもしれませんが、このようなライト文芸もたくさん出版されています。実は幅広いジャンルをカバーするレーベルなんですよね。意外ですよね。
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それでは概要のほうへ。
舞台は先ほども申し上げた通り古書カフェ。主人公の玉川すみれの作る絶品ランチが本とともに楽しめるということ、巷では噂になっているお店です。ほかの従業員は古書店担当の紙野君。理知的で朴訥としたしゃべり方が印象的な文学青年です。
その「古書カフェすみれ屋」には今日も今日とてさまざまなお客がやってきます。彼らの抱える十人十色な問題に、すみれはそんなつもりはないのについ首をつっこんだり巻き込まれたりします。そして問題が煮詰まったところで登場するのは紙野君。彼がそっと差し出す一冊の本が、その人の救いになるのでしたーーという短編が五編つづられています。
気になるのは紙野君の勧める本のラインナップでしょう!
どうせ名だたる名作揃いなんだろうと高を括っていたらびっくり。なんてニッチな選書なんでしょう。O・ヘンリという、こちらの界隈では有名だけど一般的には……という作家さんを筆頭に、荒木経惟やトリイ・L・ヘイデンなど初めて聞く作家さんも多く登場します。唯一私が知っていた著者は辰巳芳子さんくらいですが、それでもこういった本で大々的に取り上げられるような著者ではないと思っていたのでびっくりです。
きっとO・ヘンリ以外は絶版になっている本ばかりなので入手はそれなりに難しいかと思いますが、登場する作品を読んで改めてこの作品を読み返すのも面白そうですね。
(ちなみに私は辰巳芳子さんの本を図書館のリサイクル本で手に入れました。それだけ入手しにくいけど価値としては……みたいな本なのです。)
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さて、私が個人的に印象に残っているセリフがあります。
これは「火曜の夜と水曜の夜」という作品に出てくる馬場という男性が話す言葉です。彼は妻との関係に不満があり、その原因が彼女の味覚にあると決めつけています。そんな事情を友人に愚痴るときの一言です。
「(中略)――なんでもかんでも美味しい美味しいって食べられるっていうのは、自分なりの判断基準、物差しがしっかりしていない、ということでもあるんですよね」
なるほどな、と思う反面、そうなのかな、とも思うわけです。
それを理屈で説明しろと言われたら困るのですが、他人にそう思われていたら嫌だな、ともやっとします。馬場も言っていますがバカ舌は個人だけの問題ではなく、家族の作った料理によって形成されます。だけど、それをわかっているうえでこの発言をされると、なんか、いやだなあと。
とはいえこれは登場人物の馬場を悪者にしたいというわけではなく、むしろあまりに自分と価値観の違う発言に衝撃を受けたのだと思います。
こういう価値観に出会えるのも読書の醍醐味、それを久々に味わうことができたので、このことをあえて書かせていただきました。だって私の価値観が揺れたうえでの嫌悪感ですよ。すごくないですか。
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ちなみにこの本、「ミステリー」とあらすじにはありますが、謎自体は難しくないので簡単に想像ができます。むしろその解決に至るまで、すみれが作るランチを堪能し、紙野君が隠れた名著を紹介し、迎えるハートフルな結末を楽しむための作品だと思っていたほうが楽しめます。特にすみれのランチ。知らない国の料理をすみれ風にアレンジした料理たちは字面だけでもうおいしそうで、実際に食べてみたくなるほど魅力的です。
まあそんなお店なんて近くにないもんなあ、と若干悔しい思いをしつつ、週一回の楽しみであるスタバ通いにいそしむとします。それではこのへんで。読んでくださりありがとうございます!
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以下リンクです。
古書カフェすみれ屋と本のソムリエ (だいわ文庫) | 里見蘭 | 日本の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon
あらすじ
「僕は信じてるんです。たった一冊の本が、ときには人の一生を変えてしまうこともあるって」
すみれ屋で古書スペースを担当する紙野君が差し出す本をきっかけに、謎は解け、トラブルは解決し、恋人たちは忘れていた想いに気付く――。
オーナーのすみれが心をこめて作る絶品カフェごはんと共に供されるのは、まるでソムリエが選ぶ極上ワインのように心をとらえて離さない5つの忘れ難いミステリー。
きっと読み返したくなる名著と美味しい料理を愉しめる古書カフェすみれ屋へようこそ!