今回不正が明らかになったのは、グループの源流である豊田自動織機(以下、ショッキ)である。かつて勤務した者として大きなショックを受けるとともに残念である。長年にわたって築かれてきたブランドが大きく傷つけられてしまった。昨年のフォークリフトに続く、自動車エンジンでの2例目である。調査委員会の報告では、上下間のコミュニケーションの悪さと優先順序感覚のなさが指摘されている。

 いまから40年前、会社は体質改善に取り組み、「品質第一」「顧客優先」「技術革新」「全員参加」の理念を掲げて、TQC(M)を導入して、全社展開運動を行った。会社にとって重要な年度の会社方針展開では、会社方針を受けて事業部・部・課単位で上下の意見交換をする場があり、問題点が話し合われ、対策が決められる。このように問題解決のしくみはでき上がっていた。しかも、底辺には小集団活動であるQCサークルが各部署に結成され、生産現場の問題点が日々検討されていた。その甲斐あって1986年は目標のデミング賞実施賞を獲得することができた。これにより会社は一層発展する基が開かれた。(80年代の日本ではデミング賞受賞の熱が高まるとともにバブル景気が現出する)しかし、時間が経ち、人が変わっていくにつれ、当時を知る人が少なくなり、QCの重要性や熱っぽさを覚えている人がいなくなったようだ。もちろん、その間に経営環境は変化している。(こうしてバブルがはじけたあと、日本経済は低迷し、給料が上がらない、失われた30年になる。均等法定着の遅れとも符号しているようだ。)

 このしくみがいつしか機能しなくなり、上下の意思疎通が疎かになっていったようだ。生産現場で起こった事実を重視するTPS(トヨタ生産方式)だが、ここに優先順序の考えが働かなくなったようだ。通常、経営課題は多数あるので、優先順序を決めてかからないといけない。また、縄張り意識や業務分担意識も全体の障害になる。私が腑に落ちないのはTQC導入後でも、当時の社長が副社長に任せきりで、1度も参加者の多い全社QCサークル大会に参加し、あいさつされなかったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ショッキの社祖は周知の豊田佐吉である。その「発明私記」に次のことばが記されている。「自動織機ノ特許ヲ得、更ニ英、米、独ノ三国ニモ特許ヲ出願セリ。然レドモ之ハ製作ヲ完全ニシ、充分営業的試験ヲ為シ、其ノ成績充分ニ挙ラザル間は、決シテ販売スベキモノニ非ズ。而シテ之ガ試験ヲナスニハ、莫大ノ資金ヲ要スル。」といって、製品を販売するに当たって、顧客・ユーザー優先の慎重な態度を表明している。この考えのもと、いままで事業が行われたきたことに、われわれは誇りを感じている。豊田綱領で明らかにされている。

 今後、豊田章男会長の指揮のもと、経営改革に期待した。