「…もどった!!」
早朝。私は片割れの嬉しそうな声に起こされた。
今日の朝食当番は私ではない。したがって、あと30分はねむれるはずだった。
がら、と襖の開く音がした。入ってきたらしい。私は顔をあげなかった。
「瞳、瞳!見ろ!」
「なぁにさ…私は昨日のクリスの世話で疲れ…」
「もとに!もどった!!」
仕方なく顔をあげれば、海里はきらきらした笑顔を向けていた。
―――私がみたところ、とくにかわった様子はない。
「嘘つくなばーか」
「Σ嘘じゃねぇ!!」
二度寝をきめこもうとしていたので、海里の二度目の邪魔にいらっときた。
ようやく体をおこし、海里を上から下まで眺める。――変化なし。
「…気のせいじゃない?」
「違ぇ!!」
「ったく…朝っぱらから煩ェなァ」
隣の部屋から、紫音兄がはいってきた。
「…………っ紫音兄もとにもどってる!!」
「あァ?…本当だなァ」
「そういうこと!つまり俺も治ってる!わかる?」
「…ごめん海里可愛すぎて気付かなかった」
全力で目をそらした私に海里が反論しているのがわかったが、軽くスルー。私は疲れている。
「あれ?ってことは…」
一つの疑問がでてきた。みんな、なおっているのだろうか?
常識的に差し支えない時間になってから私は緋炎兄のところにいってみた。
単調で機械的なチャイムの音。そのあとに、はい、という機械を通した合成音にも近い声がした。
「緋炎兄?私!」
「あぁ、瞳!ちょいまち」
がちゃ、と扉が開かれた。
日光よけのサングラスをかけた、赤い髪のおにーさんだ。
姿を見ると懐かしい思いに駆られた。
「…やっぱ、もとにもどってる!!」
「あぁ、そうか。せやで、昨日日付かわってすぐもどったねん」
昨日の晩はあの二人は確かに女の子だった。どうやら、なおりかたには違いがあるらしい。
私は頷いて、緋炎兄にお礼をいって踵をかえした。
ここまでくれば、行くところは一つだ。
再び機械の単調な音。
「あ、瞳です。灯夜くんは…」
「あ、部屋にいます。どうぞ?」
ぎこちないしゃべり方なのでおじさんだろう。
遠慮なくあがることにした。というより、もとより遠慮する気はない。
玄関にあった見覚えのある靴で、どうやら海里もきているらしいことを悟った。
来なれたその部屋までは迷うはずもなく、ノックもなしにドアを開けた。
ちょうど、海里が喜びをかたっているところだった。
横には懐かしい灯夜…かと思いきや、相変わらず髪の毛のながい女の子がいた。
「…ノック…くら、い…し、ろ」
「灯夜、あんたはかわってないわけ?」
…少し、髪の毛の量がへった気がするけど、と付け足したら、はげたみたいな言い方はやめろとたしなめられた。
しかし、たしかにだんだん減っていく。めでもおかしくなったかと目をこすれば、つぎにみたときには立派な灯夜だった。
私はすかさず携帯をかまえ、激写した。真っ白のワンピースに身をつつむ灯夜なんて、なかなかみられるものじゃない。
素敵な写真はそのまま杏子ちゃんに転送された。
「とる、な…馬、鹿……」
「へへん、油断する方が悪いんですー!可愛いねーv」
「お前、より…は…な」
…さすが灯夜、私のむかつくセリフをむかつく表情でピンポイントについてくる。
「もういっかい言ってくれない?」
「大ちゃん、や…宗、太…の証言に、も…あっ、た…ろ」
これほどまでに大ちゃんとトリッキーを憎いと思ったことはなかったかもしれない。
不毛なやり取りに気付いた私は話をかえることにした。
「でも、なんで急になおったんだろうね…?」
「あ、それは…」
「学園…に…行った、から…か、な…昨日」
「は?」
「出席する…時間、は…なかった、け…ど…」
信じられない。私がクリスの相手をしている間こいつらは学園に出ていたのか。むかつく。
私の我慢の糸はぶちギレた。
「あんったらまじでふざけん…っ」ぷるるるる
見事に出鼻を挫かれた。これほど携帯をうらんだのも初めてかもしれない。
電話に出てみたら、どうしようもない、でも今だけはありがたい奴からの電話だった。
「…ふ、海里、今日はあんたがクリスの相手をするんだからね!灯夜も一緒にやんな!!」
二人は同時に顔を歪めた。私は逃走を開始する。バイトに行こうと灯夜のいえをでたら、ちょうど紫音兄がバイトにいくところだった。
「瞳、バイトかァ?」
「うん、いってきます!」
ざまあみろ、二人とも。なんだか勝った気分に満たされていた。
とにもかくにも、今日も平和だってことで。


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