東京交響楽団第735回定期演奏会　（サントリーホール）

指揮：スザンナ・マルッキ

ベートーヴェン：交響曲第6番ヘ長調 op.68「田園」

ストラヴィンスキー：バレエ音楽「春の祭典」

フィンランドの女性指揮者、スザンナ・マルッキが東響に登場。昨今、女性指揮者が数多く活躍するようになったが、マルッキはそのブームに乗って登場した指揮者ではなく、とうの昔から頭角を現している、真に実力ある女性指揮者である。

マルッキと言えば、どうしても現代音楽のスペシャリストという印象が強い。ジョナサン・ノットも音楽監督を務めた現代音楽専門団体、アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督を2006年から2013年まで務めていたからだ。

わが国では、2009年のサントリー音楽財団創設40周年記念サマーフェスティバルで演奏された、ファンの間で語り草となっているシュトックハウゼン「グルッペン」の演奏において、3群のオーケストラのうちの1つを指揮したことがあった（他の2群のオーケストラの指揮は、パブロ・ヘラス＝カサドとクレメンス・パワー）。2013年のラ・フォル・ジュルネでは、アンサンブル・アンテルコンタンポランとともに出演し、ブーレーズやミュライユの作品を演奏している。

もっとも2016年から2023年までは、母国フィンランドのヘルシンキ・フィルの首席指揮者を務めるなど、現代音楽だけではない活躍をしており、一時はニューヨーク・フィルの次期音楽監督にノミネートされていたほどだ（結局そのポストはグスターボ・ドゥダメルに決定したのだが）。この夏、私は彼女が振るフォーレの珍しいオペラ「ペネロープ」を観るという貴重な体験をしたが、コンサート指揮者という印象が強かったマルッキがオペラの指揮をしたのは意外ではあった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12919027134.html

さて今回の公演、どういう理由でこの選曲になったかわからないが、おそらく「田園風景」という点でのつながりかと思われる。

1曲目は12型（Cb5）の編成による田園交響曲。

全く気をてらわず、極めてオーソドックスな正攻法の演奏である。各声部がクリアに聞こえるのは確かなのだが、このような真っ正面からのアプローチだと、私はこの曲、退屈してしまうのである。特にこの曲の第5楽章は、しつこいくらい長い…カラヤンみたいに颯爽と（リピートも最小限にして）演奏するか、ノリントンのように颯爽としているうえに、古楽系アプローチをモダン楽器のオーケストラに採り入れて、装飾音符などにもこだわるタイプの演奏の方が、私にはしっくりくる。

今回のマルッキの演奏、45分ぐらいかかっていただろうか。

後半は現代音楽の先駆け、ストラヴィンスキーのハルサイ。16型。

これはすごかった！一昨年、ルツェルン音楽祭で、マルッキがアカデミー生たちによるオーケストラを振ってこの曲を演奏したのを聴いたが、その時はオーケストラが危なっかしくて、別の意味でスリリングな演奏であった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12818926666.html

今回のハルサイはさすが東響、アンサンブルに不安がないので安心して聴けたし、マルッキの音楽を見事に体現していた。マルッキはかなり指揮のアクションが大きい人だ。テンポ設定は速い部分はかなり速いのだが、その指揮がすごくて、変拍子連続のこの曲、よくぞここまできちんと振りわけるものだと驚く…かなりの反射神経がないとあの指揮は無理なのではないか？プレイヤー側から見ると、あれだけ細かく振られると逆にやりにくいのではないか？などと余計なことを考えたりする。出てくる音は豪快であるが、テクスチェアがしっかりと見える音楽作りをしているのは、やはり現代音楽がベースの人だな、と痛感した。

というわけで、前半はちょっと退屈であったが、後半はかなり満足度が高かった公演。

総合評価：★★★★☆

スザンナ・マルッキ指揮東響 田園＆春の祭典（11日）

スザンナ・マルッキ指揮東響　田園＆春の祭典（11日）