



高校3年生の夏休み。大学の推薦も決まり、のんびりしていた私はテレビでAKB48の9期生募集の告知を見て急に心が揺れました。将来はアナウンサーのように人前に出る仕事がしたくて、アイドルにも憧れていました。大学に進学はできても、自分の夢をかなえる勉強ができるとは限りません。「これでいいのかな」と思っていたんです。挑戦してみたい気持ちが抑えられなくなりましたが、AKB48に入ると進学をやめて上京しなくてはなりません。でも、相談した母は「受けてみたら」と後押ししてくれました。オーディション受験を決意し、ここに懸けようと、応募はがきを送りました。ところが――。しばらくしてそのはがきが舞い戻ってきたんです。切手が料金不足でした。とても残念でしたが、私の失敗なので仕方がありません。はかなくあきらめかけたときに知ったのが、地元名古屋を拠点にしたSKE48の4期生募集でした。今度は切手の料金をしっかり確認して、オーディションを受けて、合格できました。
でも、それからが大変でした。SKE48に合格したとき、スポーツ紙やインターネットに私の顔と名前が出て、学校でも話題に。規則が厳しい学校だったので、SKE48か学校かと悩んだ時期もありましたが、両親と話し合って、卒業はしようねと、学校は休まないようにして、なんとか卒業できました。
言葉には力がある。そう実感しています。今年初めの公演で、メンバー全員が書き初めを披露することになりました。何を書こうかな。「あきらめない」という言葉が思い浮かびました。縦長の紙に太い筆で、「あきらめない」と書きました。自分に言い聞かせるように。不思議なもので、心を文字で表してみると、もやもやした気持ちが吹っ切れました。実は悩んでいたんです。
SKE48に入って最初の頃、私は練習にまったくついていけませんでした。ダンスの先生には今も怒られますが、当時はもっと怒られていましたね。研究生から正規メンバーへの昇格も、落とすか上げるかぎりぎりだったと聞いています。先に選抜に入り、テレビに出演する同期メンバーたち。悔しかったけど、いつか抜かす、という気持ちでした。昨年5月に発売されたシングル曲「アイシテラブル」のカップリング曲でセンターに初めて選ばれました。選抜の場所に近づいたと思ったのもつかの間で、チャンスをいかせず、その翌月の選抜総選挙では圏外。自分の実力不足なので仕方がないのですが、その後もシングル曲で選抜に入ることはありませんでした。
気持ちが熱いタイプですが、逆に、この世の終わりのように落ち込むことがあります。選抜から落ちると、そのことばかり考え込むようになってしまって。笑えないし、楽しくないし……。昨年の秋から冬にかけてはそんな状態だったんです。
私の「あきらめない」という気持ちはファンの方にも伝わりました。「感動したよ」「そう思ってくれてよかった」「あやちゃんがあきらめないのなら、自分たちもあきらめないよ」「全力で推していくから」――そう言っていただいたのです。
私を応援していただいているファンの方は熱くて温かい方たちです。私がうまくいっていないことを一緒に感じてくれていたんですね。その後、公演に励みながら、ブログでがんばりたい気持ちをコツコツと書き続けて、ファンのみなさんに伝えました。
そして今年の選抜総選挙。(投票開始翌日の)速報では圏外(65位以下)から突然の8位。発表を聞いたときは人生最大のびっくり。ちゃんと息ができないくらいでした。8位のプレッシャーは大きいものでした。握手会でも、隣のレーンから「あれが柴田阿弥ちゃん?」とファンの方の声が聞こえてきます。インターネットでも私のことがニュースになっていました。これほど注目されたのは初めて。うれしいけど、本番までに圏外になったらどうしようと、しばらくは何をしてもうわの空の日々でした。
当日17位(アンダーガールズのセンター)で呼ばれたときは夢のような気持ちでした。あと一歩で選抜に入れたという悔しさを含めても、幸せな気持ちでした。
選抜総選挙のご褒美でAKB48が出演するミニドラマに出演させていただきました。初めての経験でしたが、監督や先輩たちにいろいろ教えていただきました。主演の大島優子さんは緊張している私に話しかけてきてくれました。優しいし、演技も上手。まわりがよく見えているなと感じました。お芝居の現場の楽しさを知って、今は、女優という新しい夢が生まれました。そのために、まわりの人たちのことを思いやれるような、すてきな大人になりたいですね。
■番記者から
今年の選抜総選挙速報で8位に入ったときは、全国のAKB48グループファンを驚かせた。速報だけで目立つ候補もいるが、1万票を超えていたので、勢いを落としたとしても32位までのアンダーガールズの中間くらいに残ると予想。選抜にあと一歩の17位に決まったときにはまた驚いた。
今回の取材で、正月の書き初めがファンたちを奮い立たせたことは本文で紹介したが、元より彼女とファンの結びつきは強いようだ。4期生のお披露目公演を訪れたファン6人からレターが送られた。「一目ぼれしました」「今まで推しメンがいませんでしたが、あやちゃんの推しメンになりました」という熱い言葉がつづられていた。彼女はその手紙を今も大切にしているそうだ。
ファンにはうれしいときはうれしい、悔しいときには悔しいと、思ったことは何でも伝えるるようにしている。
話していて、まじめな印象を受けた。高校時代は大学の推薦を得るために一生懸命に勉強していたそうだが、それを捨てて、アイドルの道に切り替えた。ステージでは絶対に手を抜かないと強調した。
先日の東京ドームコンサートを連日たずねたが、「恋するフォーチュンクッキー」のカップリング曲「愛の意味を考えてみた」の披露では、センターで歌う彼女の姿が何度も画面に映し出されていた。
気ははやいが来年の選抜総選挙では選抜入りもあるかもしれない。そう思った。(大西元博)