ストラスアイラの創業は1786年と古く、このあたり一帯、スペイサイド地区はおろか、ハイランド全体を含めても最古の蒸留所になります。それであれば、マッカランやグレンフィディックのように、世界で知らない人がいないくらいのウィスキーになってもいいのでは、と思うのですが、ストラスアイラは、そこまで有名ではないですよね。
 
 実は、ストラスアイラは創業こそ古いものの、1950年に一度、倒産しているのです。ウィスキー蒸留所の倒産というのは、それほど珍しいことではないようで、例えば、スコットランドのキャンベルタウンではかつては40近くの蒸留所があったそうですが、現在では2,3を残すのみとなっています。アイリッシュウィスキーも、ブッシュミルズ、カネマラなどが有名で、かつては100を超える蒸留所があったそうですが、昔から残る蒸留所は数軒になっています。
 
 
 ストラスアイラのツアーガイドでは、ストラスアイラ蒸留所の所有者が創業以来何度も変わったが、いずれも商売の才覚にかけていたのだそうです。1950年の倒産でストラスアイラは競売にかけられます。そこで、この蒸留りょお買い取ったのが、シーバスブラザーズです(リーマンブラザーズという会社がありましたが、似たような感じで創業されたのでしょうか)シーバスブラザーズは、もともとは食料品を取り扱う商社から始まっていたそうですが、1950年当時、ハイランドでウィスキーの原酒を買い付けて、ブレンディッドウィスキーを作っていたそうです。それで、原酒を確保する目的のために、破格値で買い叩いたようです(わずか7万ポンドで、という話なのですが、当時、どの程度の価値なのでしょうか)。
 

 

 このようにして、ストラスアイラで製造されたシングルモルトは、他の蒸留所のウィスキーと混ぜ合わされ、シーバスリーガル、として世界に向けて出荷されることになりました。シーバスリーガルは、確かに世界的に有名で、日本でもスーパーマーケットに行けば手に入ります。写真に、シーバスリーガル、という名前が貼ってあるのは、そういう理由になります。シーバスリーガル、という蒸留所があるわけではないのです。

 

 現在、ストラスアイラ蒸留所で生産されるウィスキーの90%は、ブレンドされたシーバスシーガルなのだそうです。どれと、どれを、どのくらい混ぜて、シーバスリーガルを作るのかは、極秘の情報だそうです。ガイドさんによれば、シーバスリーガルの中に占める、ストラスアイラの比率は、5~10%程度とのことです。シーバスリーガルには、モルトウィスキーだけでなく、グレンウィスキーも混ぜているそうです。

 

 上の写真、このウィスキーは、ストラスアイラのシングルモルト12年です。つまり、このストラスアイラ蒸留所で作ったシングルモルトなのですが、そこでもシーバスリーガルという名称が入っています。以前は、ストラスアイラのシングルモルトには、シーバスリーガルの名称は、貼られていなかったそうですが、数年前に、経営方針から、ここで出荷されるウィスキーには、全てシーバスリーガルの名前が入るようになったそうです。

 

 まぎらわしいですよね。シーバスリーガルと名前が入っていれば、誰しも、ブレンディッドウィスキーだと思いますから。少しインターネットで調べてみたのですが、「ストラスアイラのシングルモルトはもう売られなくなってしまった。全てシーバスリーガルになってしまった」という内容の記事が見つかったりします。実は、そうではないのですけれど。

 

 一番上の写真には「Single Malt Scotch Whisky Strathisla 12」と表記されています。シーバスリーガルという名前が大きく表示されていますが、これは、まごうかたなき、ストラスアイラのシングルモルトなのです。ガイドツアーのお姉さんが、このウィスキーを試飲に出すときに、「これは、ここのシングルモルトです!」と言って、ラベルの上部に大きくかかれたシーバスリーガルの文字を笑いながら手で隠して注いでいたのが印象的でした。他と混ぜ物をしないままの、ハイランド最古の蒸留所、ストラスアイラに誇りを持っているのだと思いました。

 

 このストラスアイラのシングルモルトは、お土産に購入したのですが、そこそこの種類のウィスキーがあり、全てシーバスリーガルと銘打ってあるウィスキーの中で、シングルモルトを探し当てるのは、それなりに至難の業でした。ガイドをしてくれたお姉さんが、売り子もしていたので、何度も確認して購入したのでした。お姉さん自身も、本当に紛らわしいです、と話していました。