P.30:
「こんな質疑があった。浪江町出身の**さんが『ホールボディカウンターで、自分はNDですが、知人に全体重で300~400ベクレル出ている人がいます。健康影響は考えられますか?」と聞いた。
この後の部分も相当に問題だが、まず、この部分がとても奇妙だ。まず、「浪江町出身」という表現があいまいだ。事故当時浪江町に居住されていて今は避難中だという意味なのか、または実家が浪江町にあり幼少時に浪江町で育ったが、事故当時は違う場所に居たというのかがはっきりしない。そして、「自分はND」と言っていることや「知人に全体重で300~400ベクレル出ている人がいます」と言っていることがおかしい。ホールボディカウンターは、例えば体温計のようにほぼどんな体温計で測っても同じ体温が測れるという機器ではなく、その機械が設置される環境や調整の仕方、または機器の使い方から患者の服装によっても計測値はかなり変わってしまうのだ。計測の検出下限値でさえも全体重あたり300ベクレル程度であることは珍しくない。場合によっては検出下限値そのものが全体重あたりで500ベクレルを超えることさえある様子だ。更に「全体重で300~400ベクレル」と言っても、どんな環境で計測した結果かが分からなければあまり比較にはならない。
P.30:
「え?300?それは、まったく心配いりません。私たちが気にしているレベルはこの赤線の30000ベクレルです。」
これも大変に問題な発言だ。理由は上に述べたようにこういった値を計測する機器の問題で、なぜ、これを答えた医師の方が質問をしていた訪問団の人に、自分たちの測った機器で計測をしてみませんかと言わなかったのかが疑問だ。彼らも医師であり研究者なら福島での汚染の状況がどの程度か知りたいはずだろうし、自分たちが使っている機器がどの程度の値を示すかを確認したいはずだ。
P.30:
「白内障や精神疾患を心配する外部被ばく量は200~300ミリシーベルトあたりだと言うから、これも日本の測定結果よりはるかに高い。」
記者の方が書かれた文章のはず。白内障は確かに外部被ばくで発症することが多いはずだ。しかし、精神疾患は外部被ばくで発症はあまりしない。明らかに内部被ばくで精神疾患、多分そのほとんどはブラブラ病と言われるもののはずだがが発症する。だから、この部分は明らかな間違いと言ってもいい。
P.30:
「ウクライナと比較する際に、空間線量だけに注目するのは適切ではない。ウクライナでは、外部被ばくより内部被ばくの与えた影響が大きかったからだ。」
内部被ばくの方が外部被ばくよりも健康に与える影響が一般的に大きいのは事実だが、福島での内部被ばくがあまりなかったというような印象を与えるという意味でこの文章は問題だ。実際には、福島での内部被ばく線量はあらゆる形で隠ぺいがされたわけで、半減期の短い核種による被曝は全く計測されていないと言ってもいいほどだ。事故当初、福島の青年団の方などが関係機関にホールボディカウンターで学童の内部被ばく程度の計測を要請したがすべて断られている。
P.30:
「日本の食品基準は、ウクライナが20年かけて厳しくしていった最後の基準よりも厳しいです。」
これもあいまいな文章。ウクライナの基準値が具体的にどの程度かが示されていない。
P.30:
「チェルノブイリの情報に触れた福島の人びとの議論は白熱した。(略)『家庭環境の状態が悪いと、世代を超えて精神疾患が連鎖したりするだろうね」
ここが実を言うともっともおかしいと思った部分。そもそも、こんな表現を普通の日本人がするだろうか。「家庭環境の状態」という表現は「頭痛が痛い」と同じ重複表現だ。また精神疾患という言い方は多分原発事故を巡って日本ではほとんど使われていないと思う。だから、このような会話があったということ自体が疑問だ。更に、論理的に言っても家庭環境が世代を超えて精神疾患を作り出すという考え方自体がかなり無理がある。
P.31:
「日本の空間線量、内部被ばく量が、チェルノブイリよりはるかに低く、きちんと把握されていることは確かだ。」
ここも事実とは異なると思う。福島市内などに設置されている空間線量計が、その周囲だけをきれいに除染されていて、値が低く出るようになっているというのはかなり話題になったことであり、事実のはずだ。また、内部被ばく量にしても初期被ばくの程度はほとんど測れていない。初期被ばくがある程度酷ければ、その影響は後々出てくることを無視している。