「10月の朝」と「手」

 以前、多分10年近く前、インターネット上の日記に書いたがそれと同じ話だ。

 「10月の朝」というウッズという名前のアメリカの画家の絵のレプリカが東京の新宿か銀座の百貨店のエスカレーターをあがったところで売られていた。エスカレーターの出口に展示してあるのでいやでも目に入るのだが、両側に木立が描かれ中央に確か湖が配置されている風景の絵だった。画学生が時間をかけて油絵の具で複製をしたもので投資用に買わないかというものだった。確か数十万円だったと思う。僕が23歳の時のことだから、それなりに高い値段だと思う。その時は単にきれいな絵だなという程度の印象で、そのまま立ち去ったのだが、その絵の情景は何というのだろう、いつしか僕の心の中に居ついてしまったと言うか、油絵というとその絵のことをいつも思い出す存在になっている。透明な静けさと秋の落ち着いた雰囲気、気品とつつましやかさを表していた絵だったと思う。たった一回それも短時間見かけただけの絵画だが、いつまでも印象に残り人の心を魅了する力を持っている。

 アメリカ出身のALT(英語指導助手)で絵画を専攻していたと言う方がいたのでウッズという画家を知っているかと聞いたら知らないと答えた。あまりアメリカ国内では有名でないのかもしれない。

 彫刻だが高村光太郎のものに「手」という作品がある。親指や小指が手の甲の側に反り返り、一種の苦悩を表しているのだが、人差し指の側から見ると人差し指と中指が本当に自然におおらかに天に向かって伸びている。それが苦悩の中にある明るさ、おおらかさ、困難に立ち向かいながらなお失われない高貴さと伸びやかさのようなものを感じさせてくれ、心が救われたような気がしたものだ。こちらも20代の最初のころに、確か上野の博物館で見たきりだ。

 なお、「10月の朝」については1万円程度の複製画が売りに出ているがまったく印象の異なるものだ。
 
*6月8日の記事「近づく戦争・テロ社会、これらの動きを止めるべきでは?」から一連番号を付しています。<<791>>