前々から気になっていた宿に、
「緑霞山宿 藤井荘」がある。
長野県の小布施に近い、
山田温泉にある宿だ。
名前からして、
歴史ある宿をリニューアルし、
隠れ宿風にした感じだけど、
なかなかに本格的でそそられる。
大きな看板はなく、サインは提灯のみ。
玄関前には蹲があり、小さいながら見事な庭も。
このあたりに宿の矜持を見た気がした。
宿に入ると吹き抜けになっていて、
向こうには琴の演奏台。
もしかして、バブル期に建てられたもの?
和紙の灯りは宿名の「藤」を表したもの。
チェックインのために通されたのが、
向かいの山に対峙するようなカウンター席。
ラウンジとして設けられたこの席のガラス窓は、
ボタン一つで開閉できる。
開け放たれた窓の景色は、ただただ自然のみ。
山の樹木はそれぞれに姿が違っていて、
風が吹くと枝ぶりも変わり、見飽きることがない。
紅葉の秋はもちろん、新緑の春や、
雪で一面銀世界になる冬も素晴らしいだろう。
実はこの環境に惚れ込んで、
この場所を買い取りたいという人がいた。
それは、森鴎外。
しかし、当時の主は決して首を縦に振らなかった。
それだけこの風景を大切にしていたからだろう。
そんな景色を眺めながら、ちょいと一服。
大浴場は窓が開く半露天。
雪が多いから露天を設営するのは難しいらしい。
山田温泉の湯は塩分を含んだ硫黄泉。
そのまま流すと湯の花いっぱいの濁り湯だけど、
こちらでは湯の花を濾過している。
だから、透明ながら温泉成分はそのまま。
ラウンジのカウンター席に夕食後訪れたら、
表の木がライトアップされていて、
和紙の灯りが窓に映り、
とても幻想的で美しかった。
構えが見事なだけでなく、
この建物のよさをいかに提供できるか、
宿の主がそんなところまで
腐心していることが伝わってくる。
「藤井荘 」は想像をはるかに超えるレベルかも。