先日、京都の旅館の御三家のひとつ、
「柊家」のことを書いた。

そういえば、昔「俵屋旅館」に泊まったことがある。
ただ、デジタル画像は残ってない。

と思ってたんだけど、スキャンすればいいんだ。
ってことで、もう前世紀のことになるけど、
「俵屋旅館」の思い出でも。

写真の日付を見たら1999年9月30日。

まだ残暑の真っ只中、汗だくで訪れたら、
打ち水やすだれ、坪庭の井戸(?)が清清しくて、
たちまち人心地ついた。

訪れるこちら側は老舗の看板を前にして
かなり緊張していたのだけれど、
仲居さんや男衆さんは思いの外気さくな感じで、
すぐさま心がほぐれるようだった。

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案内された部屋は2階の角。
窓が大きくて、実際よりも広々とした感じ。
ガラス窓の向こうには緑がいっぱいで、
京都の街中にいるとは到底思えない。

さすがは中村外二工務店!

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障子の手前の棚の下は、床がうがたれていて、
文机とになる。
この工夫は、ここで初めて見たのだが、
その後、多くの旅館でも遭遇した。
「俵屋旅館」が先駆なのかな?


残暑とは言え、季節はもう秋。
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こんなところで季節を実感できるのは、
日本旅館ならでは。

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高野槙の浴槽があるお風呂と、掃除が行き届いた洗面所。
こちらは石鹸やアメニティまでオリジナル。
地下水を沸かした湯も気持ちよかった。


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湯飲みや急須、茶筒まで美しく誂えられた、
部屋のお茶セット。
本当に、隅々まで趣味がいいのに舌を巻く。


ところで、高級旅館の場合には、
「心付け」という厄介な慣例がある。

実際のところ、サービス料込みの場合、
「心付け」は不要。
だけれど、オレは「どうぞよしなに」
という気持ちからお渡しした。
多分、サービスに変わりはないと思うが、
自分としては渡したほうが気持ちがいい。

このときは1泊4万円の部屋に2人。
お包みしたのは5千円。
多いのか少ないのか妥当なのかわからない。



この日の部屋係はテキパキした若い女性。
話好きながら出過ぎたところはなくて、
とても気持ちいい応対ぶり。

食事の際も、
オレらはガツガツと高速で平らげるのに、
料理の出し方のタイミングはバッチリ!
「行き届いた」というのはこのことか。

では、まず夕食から詳細に。

卓上に置かれた和紙には、「長月献立」。
1枚ずつ手書きしてある。

まずは酒。
オリジナルの日本酒を冷で。
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これがすっきりとした辛口で、
お土産に買っちゃったほど。

先附
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川海老や鱧、帆立などとともに、
ずいきや花山椒などの京都らしい彩りも。

小茶碗
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おぼろ蒸しには確かうなぎが入っていたような……。
乱切りのワサビが見事なアクセント。

向附
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鯛へぎ造り。
京都の名店だと、やっぱ鯛なんだな。

煮物
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月見湯波と名づけられた椀は、
蓋の裏側にススキの絵付き。
その美しさには思わず感心。

焼物
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魚の名は忘れたけど、柚庵焼き。
器の麗しいこと!

お凌ぎ
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当時、鳥獣戯画の意匠が好きだったので、この器はオレ的に大ヒット。

鱧鍋
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走りの松茸入りの「出合いもの」。
まさに季節のもてなしで、外の暑さが嘘のよう。

強肴
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鶏と水菜の胡麻酢和え。

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しめは舞茸御飯。
漬物もたっぷりあった大喜び!

水物
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グレープフルーツゼリー。
どこぞの名店もお辞儀の味!

料理はいわゆる京懐石と呼ばれる上品一辺倒なものではなく、
大胆さと繊細さが同居しているようで、
しかも取り澄ましたところがなく、勢いさえ感じられた。

献立の最後に書かれた料理長の名は黒川修功。
仲居さんに聞いたら、
有名旅館の料理長としてはずいぶん若い人だった。
その若さが遺憾なく発揮されていたというわけか。


食後、月見の宴をはじめたばかりだからと、
仲居さんに月見台へ誘われた。
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ここでいただいた酒の美味さは、今も忘れることができない。
 

秋の情緒にすっかり酔った後、
部屋に戻ると床がのべてあった。
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ガーゼの寝巻きがまたおっそろしく気持ちよくて、
この布団がまた、とんでもなく寝心地がいい。
なんでも、敷布団の厚みに工夫がなされているらしい。
おかげで、布団に入るなり爆睡。
それは、寝つきが悪いオレにとっては奇跡的なこと。


明くる朝の食事もまた見事。
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若狭カレイの一夜干しや湯豆腐、ちりめん山椒や漬物など、
華美ではないが、じんわりと優しさがしみてくるような味わいだった。


予算的に決して安い額ではなかったが、
これだけ楽しめたら安いもの。
思い切って自腹を切って本当によかった。

こちらに泊まったことはオレにとって、
その後の判断基準を得ることにつながった。
それが仕事する上でどれほど役に立っていることか。


この後、何度かうかがう機会に恵まれたけれど、
最初に受けた気持ちいいもてなしはいつも変わることがない。
料理は行く度に研ぎ澄まされている。

「俵屋旅館」の巷間の評判は的を射ていると思う。