京都には「御三家」と呼ばれる老舗宿がある。
50音順に、「炭屋旅館」「俵屋旅館」「柊家」。
いずれも歴史と伝統を誇る高級旅館だ。
中でも「俵屋旅館」は中村外二工務店の傑作として知られ、
際立った存在感を示してきた。
それが、「柊家」が約2年前に新館をオープンしたことで、
俄然注目される存在になっている。
「柊家」は江戸末期に建てられた旧館を今もしっかり残していて、
館内を歩いていると、時の移ろいが感じられる。
それは、京都の伝統を目の当たりにする感じでもある。
では、「柊家」に入ってみよう。
玄関は昔ながらの町家建築で、
ひかえめながらも格式の高さがある。
靴を脱いで上がったところにあるのは、
「来る者帰るが如し」の書。
NHK朝の連続テレビ小説「どんど晴れ」で、
この言葉が何度も登場していたが、
こちらをモデルにしたのだとか。
館内ではいくつかの部屋を見せていただいた。
ノーベル賞作家・川端康成が愛した旧館14号室は、江戸時代末期の建築。
2辺続きの縁側から望む庭は見事の一語。
旧館2階の25号室には自決前の三島由紀夫が、家族とともに宿泊したとか。
これは明治時代の建築。
旧館にはほかに茶室を改装した客室など、
趣のある部屋がいくつも。
新館へはふき漆の廊下を通って行く。
旧館と比べると採光がよく、
非常に明るい雰囲気になっていて、
新館はいかにも現代的。
51号室の床の間天井は明り取り窓になっていて、
部屋全体が明るいムード。
床板の縁には玉虫の羽が埋め込まれていて、
まさに玉虫色に輝く色には見入ってしまう。
風呂は高野槙でつくられていて、湯上りのリラックススペースもある。
観月台と言いたいところだが、
実は月は見えにくい。
しかし、こんなスペースがあると、
寛ぎの時間が何倍も楽しくなる。
と思って周囲を仰ぎ見たら、
大型マンションが建っていた。
景観条例に引っかからなかったのか。
かな~り興ざめ。
54号室。
お年寄りにはベッドの方が楽だからと、平成の「柊家」にベッドルームがお目見え!
62号室の床の間は、
裏側から自然光が入るようになっていて、
柊の葉っぱの形が浮き上がっていた。
柊の葉のモチーフは昔から変わらない「柊家」のトレードマークで、
色々なものに用いられていた。
このマークが江戸末期から現代へと、
時間をつないでいるように感じられた。
デザインの力とで言っていいかも。
建築デザインの面では、
伝統を守る宿の気概が見て取れる。
麩屋町の通りをはさんで向かい合う「俵屋旅館」が
和とモダンを融合したものだとすると、
「柊家」はモダンな趣だけれども、
あくまでも和の心構えを崩さないところに特徴がある。
歴史や伝統、品格など、
京都の文化の核をなすものが、
柊家には今も息づいているといっていいだろう。
ただし、書や画、器や花、お茶などに通じた人なら、
動じることもないのだろうが、
慣れてないと、寛ぎや安らぎを感じるのに、
ちょっと時間がかかるかもしれない。
でも、心得がない場合(自分を含む)も、
仲居さんに聞けば親切に教えてくれるから、
恥ずかしがることはない。
そんな文化の間近で過ごすことができるのが、
旅館のいいところでもあるわけだから、
知ったかぶりなんかしないで、
虚心坦懐に教わる方がずっと価値がある。
ある意味、いい勉強の場でもあるわけだ。
そうやって徐々に経験を重ね、
いろいろな知識を蓄えていくと、
「柊家」のよさがもっとよくわかってくるのだろう。
オレもそんな風にして、
文化を楽しめる人間になりたいものだ。
柊家の詳しいことは、こちらで。