退職代行サービスが大流行りしているという。特に4~5月が多く、毎年GW明けは5月病と言われるほど多くの離職者が出る。
離職することは悪いことではない。ブラックだったらさっさと辞めるべきだ。自分には向かない仕事だと思ったら我慢して勤め続ける必要はない。だが、大抵はせっかく手に入れた職を失うのが不安で辞められない。
かつて私は電通の持分法適用会社で社内報の編集に携わっていた。毎年4月号には新入社員5~6人の紹介記事を載せていた。皆、一流大学卒で将来を約束されたエリート達だ。当然、初任給は桁外れ。あまりにもエリート過ぎ、かつ生きている次元が違い過ぎるので羨ましいという気持ちさえ起きなかった。
そんな新人エリートも夏前に一人くらいは辞める者が現れる。傍から見れば「もったいない」と思ってしまう。名誉も大金も肩書きも全て入社半年も経たないうちに放棄してしまうのだから。だが、本人にしてみればやむにやまれぬ事情があったのだろう。もったいないとかの問題ではないのだ。そのまま無理して勤務していたら、その人はどうなっていたか分からない。
電通で過労死(自殺)した女性社員のことを覚えているだろうか? 母一人子一人の家庭で育ち、とても親思いの娘さんだったという。にもかかわらず母を一人残して自殺してしまうほど追い詰められていた。
それ以前にもそこでは若い職員が過労死しているので、大手といえどもいかに凄い職場環境なのかがうかがえる。
そんな過酷な環境下にある会社は大手だけとは限らない。むしろ中小の方が多いかも知れない。我が子がそんな状況にあったとしたら親はどう思うだろうか?
「弱音を吐くな」「根性が足りない」「慣れるまで我慢しろ」と怒るだろうか?
「さっさと辞めちゃいな」と同情するだろうか?
それとも「辞めてもいい」と思いながらも、親の口からは言えないだろうか? こちらの方が多いような気がするが……。
子の立場としては、仕事の愚痴こそ口にしても辞める決断には至らない。「せっかく就職できたのだから」「親を心配させたくないから」「弱いと思われるのがイヤだから」……理由は様々だ。
では、子の離職の悩みに親は干渉してはいけないのか?
「もう大人なんだから」「自分のことは自分で決めるべきだから」と、本人の気持ちを尊重してあえて何も言わない方がいいのか?
「親が干渉したら過保護と思われるから」と、世間体を気にした見栄で看過するのか?
答はNOだ。親もある程度干渉していい。
子の悩みに一緒に取り組むことは恥ずかしいことではない。子が未成年ならば、親は必死に助けようとする。社会人になったからといって見放すのは間違っている。悩む次元に未成年も社会人もない。子はいつまで経っても子であり、唯一血の繋がった家族なのだから。
一人で悩みを抱え込ませてはいけない。それが結果的に過労死や自死に繋がってしまう。
親は子の悩みに対して真剣に聞いてあげるべきだ。甘えた理由ならば強く叱ればいい。だが、過酷な状況が明確ならば否定せずに話を受け入れるべきだ。
世間体なんか気にしなくていい。まずは子を守ることを優先して欲しい。それは生きている限り親の義務であり、親だからできることである。
離職したい理由が「単なる甘え」なのか「限度を超える過酷さ」なのか「本人の適性の問題」なのか……まずはそれらを見極めること。そこから親としてできることがあるならばアシストなりアドバイスをしてあげよう。
[編集後記]
もう二度と高橋まつりさんのような悲劇は耳にしたくない。これなど氷山の一角に過ぎないのだから。親の悲しむ姿も見たくない……。