大人になってから自分が発達障害であることを自覚する人がいる。そういう人たちは皆真剣に悩んでいる。どうやって社会に溶け込んでいこうかと、どうやって上手く人間関係を構築していこうかと悩んでいる。でも、どうにもならないから悩み続ける。
まだ、そうやって悩む人は救いの道がある。まだ、上手くやっていけている方かもしれない。
タチが悪いのは、発達障害を口実に働こうとしない確信犯的ニートだ。
A君は現在30歳。小学1年の時にADHDと診断され、学校での問題行動や友だちとの相次ぐトラブルで、中学時代には専門の病院に入院したことがある。病院からは訳の分からない薬を投与されていたが効果はなかった。
退院後、両親は独自にカウンセラーを雇ったが、やはり良い結果は出なかった。なんとか高校は卒業したものの、勉強が嫌いだったために進学はできず、卒業後はフリーターとニート生活の繰り返しだった。
そんな彼も27歳で初めて就職ができ、親も周囲の人々もやっとまともな社会人になれたと喜んでいた。本人自身も喜んでおり、働く充実感を感じ、自由に使えるお金を満喫していた。しかし、職場のリーダーにシカトされるなどの虐めに遭い、1年で辞めてしまった。
だが、すぐに次の就職先が見つかり、再び働く喜びを味わっていた。しかし、そこでもまたチーフから嫌われ無視されるなどで、1年で辞めてしまうことに……。
3度目の就職先もすぐに決まったが、そこは超ブラックな個人経営の店。オーナーはやり手ではあるらしいが独善的で口が悪い。そのため社員は次々と離職するようなところだった。A君もいきなり馬事雑言を浴びて精神的に参ってしまい、2ヶ月で鬱状態を発症し出社拒否となってしまった。
それからというものは、まったく働く気を失ってしまい再びニートになってしまった。先のブラックの店は別にして、前の2ヶ所の職場が普通の企業であったにもかかわらず続けられなかったという事実が、自信を失ってしまったことの一因としてある。
その2ヶ所の職場だが、共に「人間関係に恵まれなかったから仕方ない」と両親は思っていた。だが、真相は違っていた。本当はA君が職場でミスを続け、そのミスをごまかしたり、ミスの報告をしなかったり、自分を守るために嘘をつき続けていたからと判明した。リーダー格の責任者としては怒るのは当然だ。呆れて無視したくなる気持ちも分かる。
A君は両親に対して、自分の都合のいいようにしか言っていなかったのである。リーダー格がブラックだと。
ブラックのオーナーもいい加減にけなしていたのではなく、A君の欠点(人間として本当にダメなところ)を正直に指摘していたのである。ただ、もともと口が悪いため表現がボロクソになり、結果的に口汚く罵ることでA君の人間性を否定してしまったのだ。
以後、正社員としてもまともに就職することができなくなったA君。結局、ブラックのオーナーがとどめとなって働く意欲を完全に失ってしまった。
だが、本当は自分が悪いのだ。真面目に、いや普通の人のように働かないことを責められたのだから。せめて嘘をつき続けなければ良かった。
両親は職場での真実を知りショックを受けた。そして、A君自身が悪いということを自覚させ、ごまかす性格を改めるように諭し続けた。その上で、まずは働く癖を身につけるよう言い続けた。
しかし、A君は一向に働く意欲を示そうとせず無気力な日々を過ごすだけ。見かねた父親が激怒すると、A君は「心療内科で診察を受けたい」と言い始めた。治したいという意思表示なら理解できる。だが、実際はそうでないことを父親は見抜いていた。
その真意は「明確に発達障害の診断を下されれば働かなくてもいい」という口実づくりのためだ。
世の中には、適応障害で休職したり退職したりする者が多くいる。正当な理由ならば仕方ない。だが、A君の場合はそれとは少し違う。発達障害と言っても軽度であり、ごまかす癖をなくせば就職することは可能だし、自分に適した仕事があれば力を発揮できるからだ。
ただ、働きたくないという理由を正当化するために、公的な口実が欲しかったのだ。ごまかすという悪知恵が、こういう面でまたもや発揮されてしまったのである。
だが、両親はそれを察知した。他人の目は欺けても小さい頃から息子を見ている肉親には通じなかったのである。
問題は医師の診断である。見た目通り診断を下すしかない。しかし、それではA君の為にはならない。両親はそれが分かっていたから「卑怯なことをするな!」と一蹴したのだ。
もしもA君の望みどおりにしたのなら、それは不正が発覚した政治家が都合良く病気になって入院し雲隠れするのと変わらない。本人の自己申告による症状を信じざるを得ない医師の診断を、卑怯者がまんまと利用するパターンだ。これを怠け者も利用しようとする。A君がまさしくそれだった。
深刻化する「8050問題」でも、医師の診断を悪用する者がいるかもしれない。当該の50代は、発達障害が社会問題化する前の世代なので意図的に悪用している者はいないだろう。だが、今の若者が50代になった時、悪意を持って利用するのではないかと懸念される。
医療関係者は、見た目だけで診断を下すのではなく、その後をどう対処し治療していくかを考慮しなければ、発達障害を口実に卑怯な真似をする者が出てくる可能性がある。
「発達障害だから怠けるのは仕方がない」と決めつけるのはどうだろうか。なんでもかんでも病気のせいにして諦めるのはどうかと考える。それが調子づかせることにもなるのではないか。
発達障害の症状は様々。本当に深刻な症状で悩んでいる人に対して誤解や失礼のないように、一人一人個別に対応していくことが大切だと思う。
[編集後記]
A君と両親は、家庭内での治療として、まず第一に「噓をつく癖を治そう」という取り組みをしている。それが改善されなければ、就職どころか友だちもできないからだ。今のA君は、自分を守るために「咄嗟に嘘をついてしまう癖」がある。バレバレの嘘を。それを指摘されると、自分でもハッとして頭を抱える。必死に立ち直ろうとしているのが分かる。もし診断書を悪用していたら、自分で解決することは永久にできないだろう。