医療従事者は年に一回健康診断を受けなければならないそうだ。結核予防の為らしい。しかし、強制ではなく任意だという。
このことで、先日取材した開業医の先生は怒っていた。本人は毎年必ず受けていたのに、同業者のほとんどが無視していたことが、保健所からの警告文書により実態が分かったからだ。
「正直に受け続けてきた自分がバカみたいだ!」と。
先生の医院がある墨田区では2割しか受けていないそうだ。それが保健所からの通達で初めて現状が分かり怒っていたのである。
先生は開業する前に大学病院にいたのだが、そこでは2割どころか0だという。なぜ、健康診断をしないのか? 「忙しくてやる時間がない」…確かにそうかも。「行くのが面倒くさい」…気持ちは分かる。しかし、もう一つ大きな理由があった。
「レントゲンによる医療被曝が怖いから」
この医療被曝に関しては以前から問題になっており、知人女性の何人かはマンモグラフィーによる被爆を嫌って乳癌検診を受けていない。一部の人は、「乳癌予防の検診がかえって乳癌を引き起こす」とさえ言っている。これはあながち嘘ではないのかもしれない。
実際の話、マンモグラフィーだけだと確実な癌の発見には至らない。エコーも同時に行わなければ意味がないからだ。マンモグラフィーだけでは映し出せないことがあるので、健診結果が「異常なし」と出ても信用できないのである。
エコーだけ行っても同様だ。マンモグラフィーとエコーが、それぞれの長所と短所を補い合って、初めて確かな結果が出るのである。しかし、マンモグラフィーは保険がきくが、エコーはきかない。そのためほとんどの人がエコーをやっていないというのが実情だ。
航空機が浴びる宇宙線による被爆は医療被曝より大きい。これも以前から言われており、航空業界では大きな問題となっている。しかも高速移動の影響で中性子が発生する。人の体に良くない中性子まで浴びてしまうのだから、乗員乗客はたまったものではない。
子供の頃、パイロットやスチュワーデスは憧れの職業だったが、実際の現場はとんでもない環境だったわけだ。日米を往復する海外出張が多いサラリーマンはエリートと言われるが、これも同様である。
しかし、これらのことは大きな話題にならない。乗員乗客の多くが宇宙線に被爆しているにもかかわらず、必ず癌になるという実証データが示されていないからだ。
自然被曝の方が医療被曝より数値が高いのは確かなデータ。実はこれを口実に、医療の世界では医療被曝の安全性を唱えているのである。
しかし、この医療被曝だが、日本は海外に比べてダントツに多いというデータが出ている。海外は積極的に医療被曝について対策を講じているのに、日本は無頓着というか野放し状態なのである。
なぜ、日本はそうなのか? ひとつには医師が購入した機械を使いきりたいからだ。
日本の医療機器は性能がいい。そのかわり高い。だから積極的に使って早く元を取りたいのである。必要以上に、なんだかんだとやたらレントゲンを撮りたがる医師は、そういう理由を持ち合わせている場合もあるからだ。
必要に迫られてレントゲンを撮るのなら、新しい立派な病院の方が安全らしい。最新機器の高くて性能のいい物を設置しているからだ。対して、個人病院の機械はどうしても型落ちした物が多い。そこらへんを熟知している大病院での勤務経験のある医療従事者は、個人病院では必要以外受けないという。
取材した開業医の先生からは、被爆について以下のことも聞いた。
・健診車は勧めない。病院の方がいい。病院のレントゲンは直接撮影といって解像力が優れているが、間接撮影といわれる検診車は短時間で多くの撮影を安価でできるものなので質が劣る。そのため被曝量が直接撮影の6倍もあるという。できれば健診車は避けたいところ。
・CTは、必要としない限り行わない方がいい。
・癌に良いと噂されるラジウム温泉だが、例え免疫力がアップしても遺伝子を傷つける恐れもあるので避けた方がいいという意見がある。ちなみに先生は絶対行かないそうだ。
・歯科医院はよく歯のレントゲンを撮るが、デジタルならまだいい。しかし、未だにフィルムを使っている所は問題がある。
・自然被爆より医療被曝の方が安全と言いながら、大学病院の医師はレントゲンの検査を受けようとしない。
これらについては賛否両論あると思うので、あくまでも参考程度に留めておくといいだろう。あるいは個人の責任で判断して欲しい。
よく健康診断について「今は特に問題がないけど、念の為に受けておくか。」と言う人がいるが、それなら受けない方が良い。特に中途半端な機械による健診ならなおさらだ。
[編集後記]
医療系の取材を度々行うが、単なる健康情報なら為になることばかりでポジティブになれるが、業界の裏話を知ってしまうと日本の医療のダークな部分を痛感して情けなくなってくる。