2004年、その時の私は中小企業の健康食品会社で、会員向け会報誌の編集に携わっていた。その会社の主な広告宣伝はローカルテレビの健康番組。重い病気を克服した人が体験を語り、番組の最後に商品を紹介するというもの。一時期、健康食品の販売促進のために誇大広告として出版され問題となった、いわゆるバイブル本のテレビバージョンだ。
その番組の放映が終わるとコールセンターには一斉に問い合わせの電話がかかってくる。そんなある日、番組が流れる直前、社内はいつもよりざわついていた。「今日は想像できないほど電話が殺到するから」と、オペレーターの数も通常より多く動員されていたのである。実際、半端ない電話がかかってきた。しかも、いつもは問い合わせや資料請求が多いのに、この時ばかりは商品注文が多かった。
その時の番組に出ていたのが西城秀樹だったのである。2004年に脳梗塞で倒れた後、当該商品で快復したという内容だった。番組は全国のローカル局で何ヶ月も使い回されるため、その都度コールセンターは大忙しだった。一般人が快復したという内容では反響はないが、著名人が語ったとなると半端ない。ある意味、広告効果だ。
番組内で秀樹が直接その商品を宣伝することはない。リハビリの最中に何気なく商品を口にし、その商品に含まれている成分の良さをMCが語るというスタイルで番組は構成されている。健康食品の広告は規制が厳しく、著名人もやすやすと出演を引き受けることはない。この時も恐らくCM契約は結んでいないはず。その代わり高価な当該商品を、会社から秀樹へ大量にプレゼントしているだろうということは容易に察しがつく。
西城秀樹がこんな中小企業の無名の健康食品を愛用していたという事実に驚いたが、悲惨な病気に見舞われた人は、なりふり構わず快復の手立てを探すものなのだ。そしてどこかに救いの手を差し伸べてくれるはあるはずなのだ。
しかし、国が法を盾に邪魔をする。一番多いのが「科学的根拠がないから」というもの。そのため何でもかんでも後手になる。
サプリメントの中には病気改善に役立つ“モノ”があるのだが、効果があり過ぎると販売を停止させられる。あるいは成分を排除させられる。これは大手製薬会社を守るためと聞いたことがある。また、大手が研究開発し科学的根拠を立証したのちに販売するためとも。だが、あまりにも年数がかかり過ぎる。その間にどれだけ多くの人が悩みや苦しんでいることか…。
また、最悪なのは人の弱みに付け込んで金儲けを企みインチキ商品を手掛ける銭ゲバ会社が次々と出てくること。だから、国も健康食品に対して規制を厳しくせざるを得ないのだ。
西城秀樹を始めとした著名人が、無名の民間療法に関わることは珍しくはない。かつて仕事で訪れたことのある某治療院は小汚く、活気のない街にひっそりと経営していた。院長は70代のお爺さん。ホームページもなければパンフレットもなく、患者は口コミのみ。それでも細川元総理が治療に訪れており、田中角栄が倒れた時には秘書がわざわざ治療を頼みに来たという。その時は、「せっかく行ったのに玄関で田中真紀子に追い返された」と言って怒っていたが…。
2017年には杉田かおるがこっそり来たそうだ。一時期テレビから姿を消したのは母親の介護のためであり、同年には過労で倒れたと報じられていた。ところが実際は過労ではなかったみたいだ。病名を言うとマスコミのネタにされるため、表向きは過労ということにしているらしい。
病気に向き合っている人たちは、みんな改善策を求めて必死に戦っているのだ。
織田無道住職の父親が末期癌で病院から見放された時、住職は大金を使いアメリカから癌の薬を取り寄せた。するとみるみる快復していった。結果的に治すことはできなかったが、症状を和らげ延命に至ったことには感謝していた。“モノ”というのは、ある所にはあるのだ。