見せしめ |  ライター稼業オフレコトーク

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アイドル記者を皮切りに、心霊関連、医療関連、サプリ関連、
コスメ関連、学校関連、アダルト関連、体験取材など様々な
分野の取材執筆をしてきました。
ここでは当時の面白かった話や貴重な情報、取材で思ったこと、
記事にできなかった裏話などを披露していきます。

 今ではあまり聞かれなくなった「エロ本」という言葉。そのエロ本全盛期の時代、時折り新聞で“エロ本を出している出版社の編集者が逮捕された”という記事を目にした。世の中にはもっと過激なのが多く出ているのに、どうして一部の編集者がたまに逮捕されるのだろうか? 今ではネット関係者が同じような目に遭っているが…。

 

 私の知人である編集者も過去二人ばかり捕まっている。

 一人は以前私が勤めていたエロ本専門社の編集者A氏。彼はそこでロリコン物を担当していた。エロ本屋にとってロリコン関係はドル箱的存在。ほんとによく売れるのだ。

 しかし、リスクが大きい。エロ本業界にとってロリコン物とSMやレイプといった暴力物を扱うことは両刃の剣。読者が触発されて犯罪に走る可能性が高いということで、警察から目をつけられやすいのである。

 昔は裏DVDが専門ショップで簡単に購入できたが、そういう店でさえロリコン物とSM・レイプ物は置いていなかった。普段は見逃してくれている警察も、それを扱うとしょっぴきに来るからだ。

 話を元に戻す。そんな数あるロリコン雑誌の中で、A氏だけがある日突然捕まった。取り立てて過激な内容の物を作ったわけではない。つまり『見せしめ 』だ。「あんまり調子に乗るなよ」と。そこのエロ本屋だけでなく、ロリコン物を扱ってるすべての出版社への警告なのだ。

 一方捕まったA氏は、すぐに社長が百万円ほどの保釈金を支払ってくれ、釈放後はご苦労様と労われていた。まるで凱旋将軍扱いで。A氏の親は泣いていたらしいが…。

 

 

 中堅だが誰もが知っている有名出版社。そこそこ大きくなってくるとアダルト系の雑誌も手を出すようになってくる。そこに勤めている私の元上司であるB氏も捕まった。

 ある朝、いきなり新聞にB氏の名前が出ていたのでびっくりしたものだ。普通なら「知人が新聞に出てるんだぜ」と言ってみんなに知らせるところだが、この場合はそうもいかない。

 これが殺人事件の犯人だったら、出たがり屋の私なので、元部下としてマスコミに売り込み「昔はいい上司だったんです。あんなことするとは思えません」などとハンカチを目に当ててTVカメラに語りかけているところだ。

 しかし、エロ本だと「おまえもあんな仕事をやってたのかぁ!」と言われてしまう。人には学研や角川といった大手でしかやっていないようなふりをしていた手前、家族や彼女には言えない過去を隠す必要があったのだ。

 話を元に戻す。そもそもB氏が携わっていた本はそんなに過激なものではなかった。下品なエロ本でもなかった。他社の中堅どころや準大手も似たような物を作っていた。なのに捕まったのは…やはり『見せしめ』だ。大手を叩く代わりに中堅を狙い「大手といえども油断するなよ」という他社への警告なのだ。

 

 

 昔の新宿歌舞伎町には「歌舞伎町浄化作戦」が始まる前まで、地下店舗で裏DVDを堂々と販売している店が多くあった。自分が若造だった頃は「こんなに簡単に買えるものなのかぁ」と胸を躍らせたものだ。しかし、時たま摘発される店がある。当時は「他にもあるのに、どうしてこの店だけ?」と思ったが、今にして思えばそれも『見せしめ』だったのだ。

 

[編集後記]

 今の時代、摘発の対象はエロ本の編集者からネットの配信者に変わった。そもそもエロ本自体減ったしね。